哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ④枯れた松の木 その4

月日は流れ、夏が来た。

じいちゃんの件があって、哲也はしばらくその松の木は見ていなかった。

だいぶ気持ちも平常に戻り、家族もなんとかいつもの家族に戻りつつあった。

そんなある日、哲也はふとあの松の木が気になり、見に行った。

「何かいる。」

大きめの昆虫が見える。

色が木の色と似ているので、またウバタマコメツキかと思った。

しかし、なんか地味な色なのに輝いて見える。

「あっ!」

哲也は大きな声を上げた。

「ウバタマムシだ!」

哲也は慌ててそいつをつかんだ。

このとき、ウバタマムシを見るのも触るのも人生初だった。

「やった!すげー!」

哲也の興奮はなかなかおさまらなかった。

普通のタマムシはむしろ何度か見たことがあった。

つかまえたこともある。

ウバタマムシは図鑑で見て、一度はつかまえたいと思っていたのだ。

哲也はうれしくて、すぐにそいつを虫かごに入れた。

飼い方がよくわからない。

ただ、こいつは松の木に来ていたし、実際図鑑にも松の木で見られると書いてある。

松の葉や幹をかじるのでは?

そう思って哲也は松の木の枝を少しもらおうと考えた。

少し高いところの枝と葉をとろうと、根元から30cmほどの高さの曲がった幹に足をかけると

メキメキメキッ!とすごい音がした。

折れる!そう思った。

哲也は枝をとるのをあきらめた。

こわいので、父にそのことを話した。

父と一緒に松の木を見に行った。

根元から50cmほどの高さの皮が少し剥げているようだ。

父はその皮をむいた。

すると・・・

なんとも情けない感じの幹が露出した。

穴だらけで、虫がくったあとの木くずにまみれ、白アリやマツノキクイムシ、クチキムシその他いろんな虫が樹皮の下にひそんでいた。

父はゆっくりと木を押した。

「こりゃ倒れるぞ。」

見た目以上に中が朽ちてボロボロらしい。

このままでは危険と判断した父はこの木を処分することを決めた。

じいちゃんの大事な木だったが、危険なのでしかたない・・・。

まず父は朽ちてる部分より上の方、根元から1mくらいのところをノコギリでカットした。

上の部分はドサリと地面に落ちてきた。

その光景を見て、哲也は悲しかった。

上の部分はこれから燃やすそうだ。

残りの部分はもろいし危ないので、少しずつ切っていくらしい。

もろいとはいえ、切るのは大変なので、この日は上の部分を燃やすので終わることにした。

このとき、枝や葉をいくつかもらった。

ウバタマムシを飼うためだ。

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