哲也の福岡一周釣り行脚 ~三平にあこがれた少年~ ②篠栗渓流ヤマメとの出会い その5

小さな滝まで来て、もう一度竿を伸ばす。

ここでどんな結果が待っているのか?

まだ哲也は知らない。

ここでダメでも、またさっきのところに戻るという選択肢はない。

哲也は、仕掛けを少し作り変えた。

滝のところは流れが速いので、おもりを重くしたのだ。

さっきのところに戻るなら、またおもりを変えなければならない。

だから、もう戻る気はない。

えさは、この泡立つ滝つぼの中で目立つように、ミミズを使うことにした。

哲也はえさを付け終わると、滝つぼの少し下流から、滝つぼに向かってえさを投げ入れた。

するとすぐに、手にプルプルと魚がかかった感覚が伝わってきた。

「きた!」

哲也はすぐに竿を上げた。

銀輪が宙を舞う。

「ハヤか。」

いつもなら釣れて喜ぶハヤだが、さすがに今回はヤマメ狙いなので、釣れたはいいがちょっとがっかりした。

もう一度えさをつけかえて投げる。

すぐにまたアタリがくる。

「またハヤだ・・・。」

ここにはヤマメはいないんだろうか?

でも、やるしかない。

さらにアタリがくる。

今度は真っ黒なものがきた。

よく見るとアカハラだ。

※アカハラ=イモリ

ふだん、かわいいと思ているイモリも、このときばかりは憎らしく見える。

哲也は針を外すと下流に向かってイモリを逃がした。

哲也はまた仕掛けをいじる。

今度は針を大きめにし、小さいハヤではそうそう口にかからないようにしてみた。

再度えさを投げ入れる。

さおをしっかり握りこみ、アタリを待つ。

しかし、今度はさっきまでのようにすぐにアタリはこなかった。

針を大きくしたからだろうか?

さおを握ったまま、時が流れる。

そのうち仕掛けが流され、手元に来るので引き上げる。

哲也はこれではダメだと思った。

針を小さくすれば、小さい魚がかかる。

大きくすれば何もかからないまま、仕掛けが流される。

そこで、思い切って仕掛けを完全に変えることにした。

今度は中通しのおもりのかなり重いものを使うことにした。

そして滝つぼに仕掛けを沈めてしまう作戦だ。

そうすることで、竿も持ったままではなく、置いておくこともできる。

早速仕掛けを作り変え、えさをつけて投げ入れる。

それからしばらく竿を握って様子を見る。

今のところアタリはない。

哲也はしばらくしてから、竿を石を使って固定した。

そして、ちょっとゆっくりすることにした。

実際、ここは素晴らしい自然の中だ。

これまでヤマメのことばかり考え、周りが目に入っていなかった。

こうしてゆっくりと腰を落ち着けて、周りを見回してみると、いろんなものが見れた。

木々や草花、そして昆虫たち。

イモリやカエルなどの動物たち。

気持ちいい空間であった。

「やっぱ篠栗っていいなぁ。」

子供ながらにそんなことを考えながら、哲也はしばらく自然を満喫した。

そんなとき、ふと竿先が動いた気がした。

「?」

哲也は息を殺して、竿先をじっと見つめた。

グググッ。

やはり竿先がときどき曲がっている。

哲也はゆっくりとさおに手をかけた。

持った瞬間、手にプルプルという感覚が伝わってきた。

「かかってる!」

哲也はさおを立ててみた。

グググッ!

竿先がひきこまれる。間違いなく魚がかかっている。

そのままさおを持ち上げた瞬間

バシャッ!

という音とともに銀輪が舞う。

そしてそのときはっきりとわかった。

「ヤマメだ!」

ジャンプした瞬間、あのパーマークが見えた。

哲也は慎重にさおを操り、ヤマメをとりこんだ。

「よっしゃー!」

哲也は狙い通りに獲物をとらえたことに歓喜した。

そしてそのヤマメはこれまで釣ったものと比べて、頭一つ分大きい。

25cm前後はあるヤマメだった。

そのあとも時間の許す限り、チャレンジしたが、この滝つぼで釣れたヤマメはこれ1匹だった。

それでも哲也は満足していた。

すごい戦利品を持って家に帰ると

父は

「おおっ、ヤマメか!こりゃすごか!」

と言うと、すぐにさばきだした。この日は父のヤマメ料理だ。

楽しい食卓であった。

それからも哲也は何度かそこへ行き、ヤマメを釣った。

受験で忙しくなるまでに、4~5回は行ったと記憶している。

中学以降、その場所で釣りをしたことはない。

もう何十年も前のことで、もうその場所もあのころとは変わってしまっているだろう。

また一度見に行きたいとも思うが、行かないほうがいい気もする。

なぜなら、あの場所は今も哲也の心の中で、あのときのままの姿で残っているからだ。

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