昨日は台風が来るかも? という状況の中、すでに雨降ってましたが 上人ヶ浜のほうを歩きました! 意外と海はおだやかでした。 潮のにおいもよかった! では89日目。 結果4.1km! 累計392.0km! 残り608.0km! まさに雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ!
哲也は慌てて帽子を取り去ると、竿のほうを見た。 「やばい!」 竿が竿たてから抜けそうになり、竿先は水面についている。 哲也は急いで竿を握った。 もう少しで竿が池の中に引き込まれるところだった。 哲也は決して平らではない岸で、ごろごろころがる大きな石に足をとられながら、なんとか体勢を整えた。 直径5~60cmはあろうかという大きな岩の後ろに立ち、その岩で足を突っ張らせてふんばる。 そして竿を立てた。 その瞬間腕にグググググッとものすごい振動が伝わり、魚が走るのがわかる。 恐ろしいヒキの強さ。 これまで経験したことのない強さに、哲也は正直恐怖を感じていた。 そしてそれがコイだろうと思った。 それまでに20~40cmクラスの鯉を何度か釣ったことがある。 20cmや30cmクラスでも、コイはフナとは違い、強いヒキを楽しませてくれる。 40cmを超えたものがかかったときは、かなりの強さでグイグイと沖へと走られた。 そのときの記憶を鑑みても、圧倒的にそれらより力が強い。 今では考えられないほど、小学生のころの哲也は小さくやせこけていた。 当然非力だった。 竿をぐっと握りしめ、なんとか竿を立てるが、リールが巻けない。 どうすればいいんだ? と考えた瞬間、ふと引っ張られる力が抜けた。 「バレた・・・。」 ※バレる=かかった魚がはずれ、逃げられること。 そう思った瞬間、張りつめていたものが一気に抜けた。 竿を握る手の力も抜けた。 今までピンと張っていた糸がだらりとたるむ。 がっくりきたのと、恐怖から逃れた安心感とが入り混じった複雑な気持ちだった。 哲也はゆっくりとリールを巻いた。糸のたるみがだんだんとれてきた。 すると、なんか抵抗を感じた。 「あれ?なんか引っ張られた気がする・・・。」 そう口走ったと同時に、急激に糸がジグザグに動いた。 おそらく、いったん沖へと突っ走ったあと、今度は岸に向かってゆっくりと泳いだのだろう。 そのあと、リールを巻いたことでコイが引っ張られていることに気づき、ジグザグに動き出したのだ。 またあのすごい力が哲也の細腕を襲う。 「ダメだ!強すぎる!」 そんな絶望感の哲也に追い打ちをかけるように、獲物は水をドカーンと破裂させ、大きくジャンプした。 「でかい!」 とんでもない大きさだった。これまで釣ったコイたちの2倍はある。これを見てまた足がすくむ。 普通ならバシャンとかボチャンとか聞こえるんだろうが、このときの哲也の耳には確かにドカーンと聞こえた。 何かが爆発したかのような炸裂音。 また糸がたるむ。バレたかと思った瞬間またエラ洗いがくる。 もういいようにやられていた。 哲也はとにかく竿を立てて、魚が向かった方向に体の向きを変えるだけで精一杯。 岩の後ろでなかったら、竿ごと自分も水中にドボンだ。 うでがしびれる。 小学生の哲也には、もううでが限界だった。 これは勝てない・・・。 こんなチャンスは二度とないかもしれない。 しかし、残念ながら今の哲也にはどうすることもできない。 哲也は非力さに涙があふれてきた。…
哲也が考えたのはチョウなどの昆虫をとらえて、それをえさにトンボを釣るというものだ。 ただ、普通に竿を振り回してもおそらく自分が丸見えでトンボは寄ってこない。 しかし、さらなる秘策があった。 哲也の家の畑には、今は枯れてしまってるが、当時4mほどの高さのヒノキが4本ほど立っていた。 さらにそのヒノキの後ろには哲也の背くらいの高さのブロック塀があった。 哲也はいつもその塀によじ登り、そこからヒノキの枝に手をかけて木登りして遊んでいた。 セミを捕まえたりもできるし、何より眺めがいい。 約10m四方の畑を一望できるので、いろんな生き物を発見するのにも役立った。 今回はそのヒノキに登り、枝に座ってそこから竿を下ろす作戦だ。 これだと、哲也はトンボのようすを上から見ることになる。 トンボからは見つかりにくいし、竿でエサにするチョウを操作しやすい。 まずはとにかくやってみることにした。 チョウを弱りにくいように木綿糸でしばる。 しかけができたら塀に竿を立てかけてブロック塀に登る。 そのあと、竿をつかんで持ち上げてブロック塀の上にのせて、木に立てかける。 そのまま今度はヒノキに登る。 そして竿を回収したら体勢を整える。 そしてトンボが飛んでるそばにチョウを誘導するように竿を動かす。 チョウはヒラヒラと飛んでいる。 そこにシオカラトンボがやってきた。チャンスだ! シオカラトンボはチョウのまわりを少し旋回し、そのあと一気にまっすぐチョウにとびついた。 来た!哲也は竿を上げる。 しかし、トンボはチョウを離し逃げて行った。 なるほど。魚釣りのように針にひっかけるわけでもない。どうやって回収するんだ? 哲也は考えた。そして網を持ってきた。 またしかけをつくりさっきと同じ方法で、今度は竿と網を木の上まで運ぶ。 そしてまたトンボを釣る。 ウスバキトンボがやってきた。この畑で最も多く見るトンボだ。 チャンスが来た。 トンボがチョウに飛びつく。 そこを狙ってチョウごとトンボを網に入れる。 「やったー!」 うまくトンボを手に入れた。 しかし待てよ。確かに釣ることはできた。だが網を使う分手間がかかる。 なんかそのまま網でとればいい気がしてきた。 とりあえずもう一度やる。 ここで哲也は急にだまりこんだ。 オニヤンマだ。 眼下にオニヤンマが来た。 網と竿両方使うのめんどくせぇ~。 なんて思考は今はナシ! とにかくオニヤンマをとる! 哲也はゆっくりと竿を動かし、チョウを飛ばす。 オニヤンマは旋回していたが、急にヘリコプターのように空中静止した。 チョウに気づいたのだ! 慌てず息を殺して竿を握る手に力をこめる。 来い来い! 頭でそう念じる。 オニヤンマは急に向きを変え、チョウに突進する。 つかんだ。今だ!…