小さなころから魚釣りや魚とりをしてきた哲也だったが、小学生の高学年までブラックバスのことを知らなかった。 その衝撃の出会いは、哲也がよく行く三段池。 哲也はいつものように、吸い込み仕掛けでコイやフナを狙っていた。 竿に取り付けた鈴が鳴らないか?と竿先を見たり、空を見上げながら寝転んでみたり・・・。 これはいつもと変わらぬ哲也の行動であった。 そんなとき、おそらく中学生であろうか? やけに短いリール竿を肩にかつぎ、リュックを背負い、歩いている男の子が哲也に近づいてきた。 「釣れる?」 ふいに聞かれ、一瞬びっくりしたが 「いえ、釣れません・・・。」 そう答えた。 「がんばって!」 そういうと彼はそのまま歩いていく。 そこから20mほど離れたところで彼は釣りを始めた。 哲也はなんとなく彼が気になり、ぼーっと見ていた。 「変わった釣り方だなぁ・・・。」 哲也は彼のようすを見ていた。 彼は、竿の先に何かカラフルな魚のような形をしたものをぶらさげて、それをリールで池に向かって投げていた。 すると、すぐにリールを巻き始める。 竿を上下左右に振ったりしながら、巻き取っていく。 手元まできたら今度は少し違う方向に投げる。 投げたら、また巻き始める。 哲也はリールを使う釣りは、吸い込み釣りか投げ釣りしかしたことがない。 竿は彼のものよりゴツくて長いし、エサを投げ込んだら反応があるまで待つ。 だから、彼のように投げ込んですぐ巻いてる意味がまったく分からなかった。 「あんなんで釣れるんかなぁ・・・。」 哲也はその日、自分がまだ全然釣れてないことは棚に上げ、彼の釣果を心配していた。 しかし、そんな思い上がりは一瞬で破られる。 少し目を離したとき、彼がいる方向から突然バシャバシャッ!と水が裂ける音がした。 「なんだ?」 思わずそちらの方向を見る。 すると彼のあの短く細い竿が弓のように曲がり、糸がピンと張っていた。 「何かかかってるのか?」 そう思いながら見ていると、魚がジャンプした。 「すげー!なんかかかってる!」 哲也はいてもたってもいられなくなった。 そうこうしてるうち、彼はその魚を手元に寄せ引き抜いた。 哲也は気づけば彼のもとにかけよっていた。 そこには30cmほどはあろうかという、見たこともない魚が横たわっていた。 スズキのように見えるが、こんな池にそんなものいるはずがない。 「なんていう魚ですか?」 「ブラックバスだよ。」 と彼は教えてくれた。そしてそれが外来魚であることや、ルアーという疑似餌で釣れることなどを教えてくれた。 そして彼のもつルアーも見せてもらった。 「コイツ、引きも強いし、ジャンプしたりもぐったりして暴れるから、すげーおもしろいんだ!」 釣り上げたブラックバスを前に、彼は得意げに話した。 「ブラックバスか・・・。」 哲也はそれ以来、ブラックバスの姿や、水面でジャンプして抵抗する姿が目に焼き付いて忘れられなくなった。 なんとかそのブラックバスを釣ってみたい。 しかし、小学生の哲也のお小遣いではルアー用具一式をそろえることなど不可能であった。…