ある日哲也は川に釣りに行った。 いつもの家の近くの多々良川ではなく、ちょっと山のほうの川だ。 ここではオイカワやムギツク、アブラハヤなどが釣れる。 えさは自宅の軒で見つけたアシナガバチの巣をとってきた。 ハチの幼虫をエサにするのだ。 あとは予備にミミズ。これも畑から掘っていった。 で、何匹か釣ったあと、えさが足りなくなった。 哲也はまだ釣り足りなかった・・・。 こんなときは、エサは現地調達しかない。 まずは川の石をめくって、カワゲラやトビケラの幼虫をつかまえる。 それらをえさに釣るのだが、だんだん面倒になる。 そんなとき、目の前に1匹のカゲロウが飛んできた。 哲也は慌ててそいつをつかまえた。 つぶさないように慎重につかんで、それをえさにすることにした。 ウキやおもりをはずし、針だけをつける。 針を刺すとカゲロウのような小さな体ではすぐにダメになって飛べなくなるだろうと、針の近くで木綿糸でしばりつける。 実はこんなことをたびたびやってたので、釣り具入れに木綿糸を入れていたのだ。 そしてカゲロウが弱りにくいようにすることと、自然に飛んで川に落ちたことを演出するため、ウキやオモリをはずしたしかけで、ふわりと投げる。遠くには投げれないが・・・。 今回もその方法で釣ろうと、しかけをつくりカゲロウを飛ばした瞬間だった。 すごい勢いでトンボがせまり、カゲロウを襲った。 結果、トンボはカゲロウにアタックしたもののつかめず、そのまま飛んで行った。 「おおっ!」 哲也は一瞬の出来事に驚き思わず声を上げた。 このとき、ひらめいた。 「トンボ釣れるんやないかなぁ。」 そう思い、哲也はビクを見た。 オイカワやムギツクが結構な数入っている。 これらは父に空揚げにしてもらう予定だ。 充分な量はある。さっきまでまだ釣りたい!と思っていたが 今はいてもたってもいられない状態になっていた。 帰ってトンボを釣る方法を考えて試したい。 哲也は急いで帰り支度を整え、帰路についた。