移動してすぐに・・・。
哲也は感動で動けなくなった。
「うわぁ~。」
と声ともため息ともつかないような、口から思わず漏れ出るような声を出しながら目の前の光景にただただ見とれていた。
センチコガネの群れだ。
おそらくオオセンチコガネだと思われる。
黒を基調としたからだの表面は、赤とも紫とも青ともつかぬまばゆいほどの輝きでコーティングされている。
そんなセンチコガネが脚や触覚に糞をつけたまま、何匹も集まって無心に糞を食べていたのだ。
「ピカピカだ・・・。」
哲也はそれまでセンチコガネは何度も見たことがあった。
この種は獣の糞を探して飛び回っているらしく、クワガタ採集のため山に何度も入る哲也にとってはさほど珍しいものではなかったのだ。
ただ、目の前にたまたま飛んできた1匹を見つけた!なんてことが多く、きれいとは思っていたが、どうしても糞虫であることを知っていたので、別に気にも留めず、捕まえて持ち帰ることもない昆虫だった。
しかし、においも気にならないほど牛糞のそばで観察を続けている今の哲也にとって、対象が糞虫であることはどうでもいいことだった。
それよりも、普段なら汚い!と寄り付くことのない糞に、10匹ほどのセンチコガネが、虹色の輝きを放ちながら動き回る姿には、神々しささえ感じていた。
「すごい。こんなにきれいな虫だったんだ・・・。」
哲也はゆっくりと近づき、さらに観察した。
ただ、ここでは先ほどのような巣穴的なものは見つけられなかった。
しかし、糞を食べながら、中には交尾中のものもいて、彼らの生き様を見せつけられた気がした。
さらに歩き回り、マグソコガネも確認できた。
この時点で、かなり哲也の中では満足していたのだが・・・。
一つだけ、もやもやしていることがあった。
ファーブル昆虫記では、フンを転がして巣に運ぶことが書かれていた。
しかし、どこを見回しても転がしてるヤツは見当たらない。
この日はこれで帰りましたが、この日以降も何度か観察に行ってみた。
ほかにも多数の種類の虫を発見した。
図鑑には載ってなかったものもあり、結局名前がわからない虫もいくつかいた。
でも、糞にこれほどいろんな種の虫がいて、それぞれいろんな生活をしている。
そういうことがわかったことが、哲也は何よりうれしかった。
しかし、結局彼らがふんを転がしているところは一度も見れなかったのだ。
ファーブル昆虫記を読み、ファーブルに憧れ、フンコロガシに思いを馳せた哲也だったが、残念ながら調べていくと、日本の糞虫のほとんどが糞を転がさないということだ。
どおりで、発見できないはずだ・・・。
しかし、哲也の昆虫に対する熱がこれで冷めるはずもなく・・・。
また哲也は様々な昆虫を観察するために、野山に入っていくのだ。