春のある日・・・。
暖かい日が増えてきたころだった。
哲也は週に1回ほど、バッタの家をのぞき
土の乾き具合をみて、霧吹きするのを続けていた。
ただ、見る限りなんの変化もない日々だった。
しかし、その日は何か違っていた。
真っ黒の土、枯れ葉や枯草が落ちているいつもの風景・・・。
その中に、何か動くものがいた気がした。
「なんだ?」
哲也は気のせいだろうと思いつつも、ゆっくりとバッタの家に近づいた。
「うわっ!」
哲也は思わず声を上げた。
幼虫だ!
バッタの幼虫がたくさんいる!
数十匹はいるのではないか?
かなりの数だ。
彼らは土の上や枯草の上をそれぞれに這いまわっていた。
「やった!成功だ!」
哲也は繁殖に成功したことを喜んだ。だが、これで終わりではない。
哲也は急いで草をとりに行った。
コップに水をはり、草を入れた。
そう、彼らを育てて大きくしなければならない。
哲也の目的は、キチキチバッタがショウリョウバッタのオスであることを確かめることだった。
昨年の夏、キチキチバッタとショウリョウバッタは間違いなく交尾していた。
そして、ショウリョウバッタは産卵行動をとっていた。
ほかに、この籠の中には何もいれていない。
そして、小さなバッタの幼虫がたくさん産まれた。
あとは彼らがショウリョウバッタとキチキチバッタになればいい。
そうすれば、哲也の中で間違いなくキチキチバッタがショウリョウバッタだといえるのだ。
哲也は毎日世話をした。
それでもなぜか減っていく・・・・。
でも、そんな中脱皮するものが現れた。
脱皮中のものも見つけたし、脱皮殻も見つけた。
そして少し大きく、しかもからだがしっかりしたものが出てき始めた。
まだ羽は伸びてないし、親と比べるとまだまだ小さいが
その姿は間違いなくショウリョウバッタである。
数十匹はいたと思われる幼虫たちもいつしか10匹ほどになっていた。
しかし、彼らは日々間違いなく成長していった。
そして・・・。
ついに成虫が現れた!
キチキチバッタだ!羽が伸びきっていて、間違いなく成虫だ。
さらに数日後は大きなショウリョウバッタが現れた。
結局、キチキチバッタ3匹、ショウリョウバッタ4匹が成虫となった。
最初からするとずいぶん減ったが、満足した。
キチキチバッタはやはりショウリョウバッタのオスであった。
哲也はやりきった思いで、彼らをずっとながめていた。
しかし、哲也にはほかにやることがある。
昆虫はショウリョウバッタだけではない。
ほかにも飼いたいもの、調べたい虫がまだまだある。
このまま育てれば、またこの中で交尾、産卵を行い
来年もショウリョウバッタたちを見れるかもしれない。
でも、終わりだ。
哲也はかごを空けるために、かれらを虫取り用の虫かごにうつした。
そして例の草むらまできた。
そしてふたをあけた。
「バイバイ!」
哲也は彼らを自然の中に帰した。
悲しかったがしかたない。
哲也の昆虫飼育はまだまだ途上。
次は何を飼育しようか・・・。
悲しさ、さびしさなどあっという間・・・。
哲也は次のことを考えると、また楽しくなってきた。