哲也はこの神社で様々な楽しみ方を発見した。
まず、いろんなセミのオス、メスをつかまえて見比べるのをさんざんやった。
オスは鳴くがメスは鳴かない。
これについては、自分を含め、周りの子たちもほとんど知ってる事実だ。
しかし、それ以外に違いはないか?
で、つかんでいろんな角度から見てみる。
そして裏側を見たときに感動した。
オスには大きな弁があり、メスはない、もしくはかなり小さい。
それが間違いではないか、何匹も見比べて確かめ、オスだけが大きな弁をもつことを確認した。
さらに、オスをつかんでいると、当然ギーギーとさわぐのだが、そのときその弁がふるえてることもわかった。
「おもしれぇ!」
ふるえる弁を見て、哲也はそう思った。
どの種もそうなるか確認したりした。
どれも弁は声を出すときふるえていた。
震えている弁をおさえると、音が出にくくなったり小さくなったりした。
記憶では完全にとめるのはできなかったと思うが、もう覚えていない。
それと、弁の形や色が結構、種類によって違うこともわかった。
もしかすると、弁の形によって出る音が変わるから、セミの種類によって鳴き方が違うのかもしれない・・・。
哲也はそんなことを想像していた。
大きなクマゼミが特に好きだと書いたが、そのクマゼミのオスの弁は黄色というか橙色というか、とにかく鮮やかで、ほかのセミとは全く違っていた。これもまたクマゼミを好きと言わしめるところだ。
さらに、哲也は採集方法も考えた。
この神社はとにかくたくさんの木々があるため、セミたちは木から木へと飛び移っていく。
そのため、セミを見つけたら近寄って網をふるい、逃げられたらその方向を見失わないように目で追い、また近づく。
セミとりは意外と移動が多く体力を消耗するのだ。
「楽にとれる方法ないかな・・・。」
と考え込んでいた時だ。
ぼーっとしたまま突っ立っていると
1匹のセミがピタッと、哲也の服にとまった。
「?」
こんなことがあるのか。エサの樹液が絶対に吸えそうにないのに、なぜとまるのか?
理由はわからない。
しかし、よく考えたら、家の壁にとまったり、電柱にとまったり
生きてる木じゃないところにもとまるのを何度も見てるじゃないか!?
人の気配がしなければ、こうやって近くまでくるのでは?
哲也は、手ごろな木にのぼった。枝がたくさんあり、足場がある木だ。
そしてある程度の高さまで登ると、哲也は枝を枕にねころんだ。
木の上で寝転ぶのは気持ちがいい。
まあ、あちこち痛いが・・・。
で、そのまま網は右手に持って置きじーっと動かなかった。
しばらくするとセミはその木にやってきた。
手を伸ばせばとどきそうなくらい近くだ。
哲也はゆっくりと網を動かし、サッとかぶせた。
簡単にとれた。
場所によっては網が動かしづらいこともあるが、これはかなり楽だ。
セミは(私の知る限り)とまる樹種を選ばない。
なので、どの種類のセミもこの木にやってくる可能性がある。
移動しまくるよりはとれる数は少ないが、とにかく楽なのだ。
このように、この神社は哲也の虫取り場、および遊び場として貴重な場所であった。