哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑨哲也とカブトムシ その2

数日後、待ちに待った父の休みの日。

疲れてるだろうに、夜8時を過ぎたころ、父は哲也を外に連れていってくれた。

もちろん、田中橋の外灯下を見回るためだ。

着くと、昼にしか見たことのない田中橋が、暗闇の中なのに水銀灯に照らされ輝いていた。

未知の世界に哲也はものすごくワクワクしたのを覚えている。

哲也と父は橋の右と左に分かれ、それぞれチェックしながら向こう岸まで進み、帰りは反対側をお互いチェックするという方法をとった。

哲也にとってはこれが初の灯火採集。

歩き出すとすぐにガムシやコフキコガネが見つかる。

しかし、哲也はそれらをスルーした。

今回はカブトムシとクワガタ、そしてカミキリムシだけを持って帰ろうと決めていた。

父のほうが気になるが、とにかく目の前の道に集中した。

クワガタのメス!

哲也はコクワガタのメスを見つけた。人生初の灯火採集の戦利品である。もちろんこれはキープ。

さらに歩く。ツクツクボウシが目の前に落ちてくる。

つかまえるとギャーギャーうるさいのですぐに放す。

カマキリもいた。

このときの哲也はそんなこと考えなかったが、これは明かりに寄ってきたわけじゃなく、明かりに寄ってきた虫を狙うためにきたのだろう。

そうこうするうちに向こう岸についた。

ここで哲也は父と入れ替わって反対側の歩道を歩きだす。

そのとき、ブーンとかなり大きな音がした。

見上げると、水銀灯の明かりのところに何か大きなものが飛んでいる。

「カブトムシだ!」哲也は思わず叫んだ。

しかし高くてとても届かない。

父が反対側の歩道から哲也のもとにかけつけた。

父でも届かない高さだ。

しかし、父は焦らずにこう言った。

「そのうち目がくらんで落ちてくるけん、ほかのところ見て、あとでまた戻ってきんしゃい。」

そういうものなのか。

哲也は父がそういうので安心してまた歩道を歩き始めた。

最初の地点まで戻ってきたが、何も得られなかった。

哲也はさっきカブトムシが飛んでいた水銀灯を見てみた。

「何も飛んでない。」

もしかしてどこかへ行ってしまったのか・・・。

哲也は慌ててその水銀灯の下に戻った。

すると・・・。

「いた!カブトムシ!」

哲也はカブトムシの胸についているツノをしっかりとつかんだ。

カブトムシは足を回転させてもがいている。ものすごい力だ。

父が駆け寄ってくる。

「おお、とれたか!」

哲也が満足そうなのに、父も喜んでくれているようだった。

この日、カブトムシのオスとコクワガタのメス

それと父が見つけていたノコギリクワガタの小さなオスの3頭をとることができた。

哲也はそれらを、カブトムシのメスが待つ虫かごに入れて飼育した。

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