数日後、待ちに待った父の休みの日。
疲れてるだろうに、夜8時を過ぎたころ、父は哲也を外に連れていってくれた。
もちろん、田中橋の外灯下を見回るためだ。
着くと、昼にしか見たことのない田中橋が、暗闇の中なのに水銀灯に照らされ輝いていた。
未知の世界に哲也はものすごくワクワクしたのを覚えている。
哲也と父は橋の右と左に分かれ、それぞれチェックしながら向こう岸まで進み、帰りは反対側をお互いチェックするという方法をとった。
哲也にとってはこれが初の灯火採集。
歩き出すとすぐにガムシやコフキコガネが見つかる。
しかし、哲也はそれらをスルーした。
今回はカブトムシとクワガタ、そしてカミキリムシだけを持って帰ろうと決めていた。
父のほうが気になるが、とにかく目の前の道に集中した。
クワガタのメス!
哲也はコクワガタのメスを見つけた。人生初の灯火採集の戦利品である。もちろんこれはキープ。
さらに歩く。ツクツクボウシが目の前に落ちてくる。
つかまえるとギャーギャーうるさいのですぐに放す。
カマキリもいた。
このときの哲也はそんなこと考えなかったが、これは明かりに寄ってきたわけじゃなく、明かりに寄ってきた虫を狙うためにきたのだろう。
そうこうするうちに向こう岸についた。
ここで哲也は父と入れ替わって反対側の歩道を歩きだす。
そのとき、ブーンとかなり大きな音がした。
見上げると、水銀灯の明かりのところに何か大きなものが飛んでいる。
「カブトムシだ!」哲也は思わず叫んだ。
しかし高くてとても届かない。
父が反対側の歩道から哲也のもとにかけつけた。
父でも届かない高さだ。
しかし、父は焦らずにこう言った。
「そのうち目がくらんで落ちてくるけん、ほかのところ見て、あとでまた戻ってきんしゃい。」
そういうものなのか。
哲也は父がそういうので安心してまた歩道を歩き始めた。
最初の地点まで戻ってきたが、何も得られなかった。
哲也はさっきカブトムシが飛んでいた水銀灯を見てみた。
「何も飛んでない。」
もしかしてどこかへ行ってしまったのか・・・。
哲也は慌ててその水銀灯の下に戻った。
すると・・・。
「いた!カブトムシ!」
哲也はカブトムシの胸についているツノをしっかりとつかんだ。
カブトムシは足を回転させてもがいている。ものすごい力だ。
父が駆け寄ってくる。
「おお、とれたか!」
哲也が満足そうなのに、父も喜んでくれているようだった。
この日、カブトムシのオスとコクワガタのメス
それと父が見つけていたノコギリクワガタの小さなオスの3頭をとることができた。
哲也はそれらを、カブトムシのメスが待つ虫かごに入れて飼育した。