うっとうしい梅雨の季節がきた。
5歳の哲也は、外に遊びに行ったり、虫取りしたりできないことで、うらめしそうに空を眺めた。
「晴れてほしいなぁ。」
哲也は山や川に行きたくてしかたなかった。
しょうがなく、哲也は図鑑に手をかけた。
昆虫の写真でも見て、気をまぎらわそうと思った。
カブトムシのページを見たとき、哲也は思い出した。
「そうだ!幼虫どうなったかな?」
冬以来放置していた衣装ケース。
哲也はおそるおそるそのフタを開けてみた。
すると
1頭のカブトムシが腐葉土から顔を出していた。
「カブトムシだ!」
この瞬間、5歳にして哲也はカブトムシの累代飼育に成功したのだ。
図鑑でしか見たことのなかった、憧れの昆虫の王様。
父に連れられ、田中橋で灯火採集を覚え、夢中になって飼育したカブトムシ。
それが今、冬を終えて、哲也の目の前に労することなく手に入ったのだ。
それからえさやりを開始。
数日のうちにカブトムシは増えていき、結局オスメス合わせて10頭ほど出てきたと思う。
また彼らが交尾、産卵し、その幼虫が育てば、来年もカブトムシが手に入る。
そんなことを考えていた。
ただ、哲也にはまだ心残りがあった。
図鑑ではカブトムシのさなぎや、羽化したての羽が白いものなどの写真がある。
哲也はそういうのを一切見ていないのだ。
どうしてもそれらを実物で見たい。
哲也は近所のにいちゃんの言葉を思い出す。
5月~6月は蛹になったり、羽化する時期だから、触ると死んでしまうというもの。
哲也はその言葉があったから、ずっと触らず、ある意味それを守ったおかげで累代飼育に成功したのだろう。
しかし、さなぎが見たい!という欲はハンパなかった。
どうしても見たい!
秋のはじめごろ、カブトムシたちが1頭、また1頭と死んでいく。
そんな中、腐葉土を掘ると、また卵や小さな幼虫が見つかった。
今年も産卵は成功しているようだ。
本によると、カブトムシの幼虫はまず部屋をつくりそこでさなぎになる準備をする。
そして脱皮後さなぎとなる。
1か月ほどで羽化し、からだが黒くなってかたくなったら地上に出てくるらしい。
今回最初のカブトムシを見たのは6月下旬だった。
ということは5月のおわり~6月のはじめにさなぎが見れるのではないかと予想した。
哲也はワクワクしながら、そのときを待つことにした。