ふみちゃんという、強力な助っ人のおかげで戦意を取り戻した哲也は、とにかく夢中でリールを巻いた。
その距離はだんだん縮まってくる。
すぐそこにあの巨体が常に見えている状態になった。
終わりは近い。
二人は最後の力をふりしぼる。
弱ってるだろうが、それでもときどき水面をしっぽでたたき、抵抗してくる。
そのたびに腕に衝撃が伝わり、握力を奪う。
それでも二人は離さない。
最強のコンビだ。
もうあと5mもない。すぐそこでコイが右に左に走る。
しかし最初の力はもうない。
それにしてもでかい。
こんなものと戦っていたのか?
時計は持ってないが、おそらく20分以上は経っていると思う。
バシャバシャ!
水面が炸裂する。
コイは大きく体をくねらせ、岸に寄るのをいやがるように暴れる。
でももう年貢の納め時だ。
ついにコイの顔が水面から出た。
大きな口を開けたコイ。かなりの迫力だ。
哲也はその顔を見て再び恐怖を覚えた。
でかすぎる。怖い。
手が震える。とりこむための網をとろうと、竿から右手をはなす。
そのときだった。
カシャン!
哲也の手がベイルに当たった。
シュルシュルと糸が出る。
「しまった!」
このときにはすでに遅かった。
慌ててベイルを閉じたが、手が届きそうなところまで寄ったコイはまた岸から離れた。
糸の色から察するに10mちょっとというところか・・・。
もう握力も腕力も限界。足もガクガクしている。
はさみで糸を切ってあきらめようとしたとき以上の絶望感が襲う。
そして助っ人ふみちゃんも限界を迎えていた。
「ごめん。ふみちゃん・・・。」
「いや、いいよ。」
二人の言葉には力は宿っていない。
悟っているのだ。もう一度あのコイをここまで引き寄せる力はもう二人には残っていないことを。
今、二人が中学生くらいになっていたら・・・・。
そんなことを考えるが、現実は小学4年生。急に力は宿らない。
そして、体中の力を使い果たしている。
もう打つ手はない。
今度こそ本当にあきらめるときだ。
このまま戦っても、哲也もきついがなによりふみちゃんに申し訳ない。
三段池から家に帰るには、二人ともかなり急こう配の坂道を自転車でのぼらなければならない。
その体力もすでに残ってないほど消耗しているのだ。
これ以上は、無理はできない。
哲也は悔しさをこらえ、今度こそはさみで糸を切ろうと覚悟した。