哲也は早起きして自転車をこぎ、三段池の前に立っていた。
いつもは2段目と3段目の間で釣るのだが、今日は1段目と2段目の間に来ていた。
実は、近所の兄ちゃんとの会話で
「三段池に行ってみるんか?」
「うん!」
「それなら1段目と2段目の間の道の入り方わかる?」
「わかるよ。」
「じゃあ、そこの道から2段目のほうに降りてすぐのワンドがいいよ。」
※ワンド=入り江
「ありがとう!そこに行ってみる!」
と、こういうやりとりがあった。
それで、哲也は今その場所に来ているのだ。
荷物を岸に置き、準備しようとしたときである。
なんか沖のほうで魚影が見えたと思い、凝視した。
「うわぁ・・・。」
哲也は声を漏らした。
なんと、岸から数メートル~10メートルくらいの範囲にいくつもの魚影が見えたのだ。
そのフォルムはコイでもフナでもない。
「ブラックバス!?」
哲也は心臓がバクバクなるのを感じた。
初めてのルアーフィッシング。
その瞬間に、こんな場面に出くわすとは・・・・。
だがどうだろう?
大人たちと釣りに行くことがよくあった哲也はよく聞かされていたんだが
「見えてる魚は釣れんけんなぁ・・・。」
という言葉を思い出す。
そしてフナやコイが表層に浮いてて見えてるとき
狙ってエサを投げたりしても釣れたためしがなかった。
「これって幸運?不運?」
たくさんの姿を見ても釣れなきゃ意味がない。
ましてやルアー初挑戦の素人。
複雑だったが、考えてても始まらない。
「とにかくやってみるか。」
哲也は準備を整えた。
ルアーを何にするか迷ったが
表層に浮いてるのを見たのでトップウォーターを使うことにした。
※トップウォーター=ルアーの分類の中で、表層で水しぶきや音を立てることで魚を誘引するタイプのもの。水にもぐったりしない。口にくぼみがあり、水を吐くようなアクションをするポッパー、プロペラがまわるスウィッシャー、複雑な動きをするペンシルベイト、カエルに似せたフロッグなどがある。
哲也はポッパーをとりつけた。数少ないルアーの中の唯一のトップウォータータイプだ。
記念すべき第1投!
シュルシュルと糸が出ていき、やがてポチャンと着水した。
そしてリールを巻く前にクイッと竿先をしならせた瞬間だった!
バシャッ!
大きな音とともに水面が破裂した。
一瞬何が起こったかわからない。
しかし、次の瞬間魚体が躍り出てルアーに上からかみついた。
ジャバン!
そのままその魚体はルアーを咥え込み、水中にもぐりこんだ。
そしてその振動が手元に伝わったかと思うと、糸フケをとろうとしていたラインがいつの間にかピンッと張って、そのまま竿が大きく弓のように曲がった。
「かかった!」
哲也は思わず叫んだ。
記念すべき第1投目でいきなりヒット!
水中をもぐりながら抵抗するバスをなんとか弱らせようと、竿を立ててリールを巻く。
バシャン!
ジャンプして、針を外そうとする。
しかし、哲也はひるまず竿を操作してバラさなかった。
数分の格闘の末、バスは岸に寄ってきた。
大きな口にガッシリと針がかかっている。
哲也はそのままバスの下唇をつかみ持ち上げた。
「やったー!釣れたー!」
勝利の雄たけびを上げる。
初挑戦で、第1投で、ブラックバス第1号をしとめた。
もってきていたメジャーで測ると32cmだった。
この32cmが生涯最初のブラックバスのサイズであった。
それにしてもすごいファイトだった。
まだ手に振動が残っているようだ。
とにかくそのヒキの強さには感服した。
ジャンプもするし、ものすごくおもしろかった。
そして釣り上げたときの満足感がハンパなかった。
興奮冷めやらぬ中、哲也はさらにルアーを投げた。