そのあとも、ときどきタマムシを見たり、捕まえたりすることはできた。
しかし、何かが満たされない・・・。
図鑑では美しい成虫の姿だけでなく、幼虫やさなぎの姿も載っている。
もちろん、そういうのを見たいというのもあったが、どちらかといえばなんかその生態がよくわからないことが不満な気がした。
例えば、大好きなカブトムシは、夏に樹液に集まり、オスとメスが出会い、交尾をすませたあと、メスは腐葉土などに産卵をする。そこで育った幼虫は冬の間に成長し、初夏にさなぎとなって、準備が整ったら満を持して地上に出てくる。そうしたはっきりしたサイクルがある程度わかる。
実際、飼育して産卵させ、翌年に成虫を拝むこともできた。
しかし、タマムシは図鑑等でいろいろ書いてあるので、それである程度のことはわかったが、なんとなくぼんやりしていた。
その生活をもっと垣間見たい。それがおそらくもやもやの原因だったと思う。
基本哲也は小学生の低学年までは、春~秋までしか昆虫採集をしていなかったのだが、高学年になってからは、カブトムシやクワガタの幼虫を探したり、越冬中の昆虫を探したりし始めた。
冬のある日、どうしても昆虫採集したい!とうずうずして、昆虫採集にでかけることにした。
手には父にもらった、ちょっと古めのナタがある。
クワガタの幼虫を取るのに、枯れた木を割ることを話したら
「お前専用のナタにしてよかばい。」
と言われ渡された。
目的地は、夏のうちにチェックしてたクヌギの倒木。
まだ堅いところも多かったが、哲也の力でも割れるような場所もある。
哲也はそこを慎重に割ってみた。すると・・・。
なんと!タマムシの幼虫を発見した!
「やった!」
さらに割ると、少し空間が出てきて、そこにはなんと成虫が!
「すごい!羽化して休眠してる!」
哲也はすごく興奮していた。図鑑のような光景が目の前にあった。
この日、さなぎは見れなかったが、さなぎも後日見ることができた。
すべてわかったわけではないが、哲也はタマムシの生態がかなりわかった気がして、そしてこれまで以上に身近に感じてますます好きになった。
次の年の夏のこと・・・。
クワガタ採集には少し早いか?と思われる6月初旬。
とはいえ、数は少ないが一応5月の終わりごろにもクワガタをとったことがあったので、本格的な夏を待ちきれないい哲也はクワガタ採集にでかけた。
目的の林道に入る前に、大きなクヌギの木があるのだが、ほとんど樹液が見当たらず、あまりチェックしない。
普段なら素通りするのだが、哲也はその木の近くまで来た時に、なんとなく違和感を覚えた。
「なんか木から飛び出てる?」
そう思い、哲也は急いで木に近づいた。すると・・・。
「えっ?タマムシ?」
なんと!木の幹に小さな穴が開いてて、そこから顔を出しているタマムシがいたのだ!
まさに、木の中で羽化して時期を待ち、これから活動せんとするタマムシの脱出シーンに出くわしたのだ。
「すげー」
哲也はその様子に見入っていた。
結構時間がかかる。
途中で、手伝いたい衝動に駆られるが我慢。
時間は見てなかったが、かなり経ち、ついにそのほぼ全身が出てきた。
そんな場面を目の当たりにし、ものすごい興奮と嬉しさに満ち溢れた。
さらにその木を見回すと、ほかにもいくつか穴があり、何もいない穴、奥にタマムシの顔が見えてる穴、脱出を始めてる穴・・・。
結構、たくさんの穴があった。そこでまた感動した。
飛び回って、とるのに結構苦労するタマムシ。
それがたくさん、しかも無防備で簡単に捕まえれる状況。
低学年のころの哲也なら、喜んでそれらを根こそぎつかまえて持ち帰っただろう。
しかし、このとき哲也はただの1匹も持ち帰らなかった。
脱出の無防備なところを狙うのはフェアーじゃない。
こいつらと縁があるなら、この夏またこのあたりで飛び回っているところに出くわし、つかまえることができるだろう。
そのときまた勝負だ!
そんなことを勝手に思いつつ、哲也はその木をあとにした。
そんな年の夏休みも、林の中でタマムシをおいかける哲也の姿があった。