これから始まるお話は私の子供時代の経験をもとに、記憶があいまいなところもあるので脚色はしていますが、基本的には実際にあったことを文章にしてみました。今回のお話の題名にクエッションマークがついてますが、読み進めてもらえば、なぜつけたかわかるようになっています。ぜひ読んでみてください。
小学生の哲也は本が好きで、いろんな本を読んでいた。
図書室であるとき「ファーブル昆虫記」に出会い、
あまりの面白さに次々に借りて読んだ。
その中でフンコロガシの話があり、かなり興味がわいた。
昆虫図鑑を穴が開くほど見まくっていた哲也は糞虫についても知ってはいた。
日本にすむものではセンチコガネやダイコクコガネ、マグソコガネにエンマコガネなどがいるということも知っていた。
この中でもセンチコガネについては、時々山中で見かけたことがあり、糞に集まる虫なのにやたら輝いててきれいだと思っていた。
ほかの虫については見たことはなかった。
ただ、これらがすんでいるであろう場所については心当たりがあった。
家から2kmほど離れたところに牛小屋がある。
その小屋のまわりは鉄条網で囲まれた草原になっており、ときどき牛はそこで放し飼いされていた。
その場所のすみっこに、一部網が破れているところがあり、そこにはほとんど牛は来ない。
その破れたところから草原内に入ってすぐのところにクヌギが数本あり、ノコギリクワガタがよくとれるスポットだった。というわけで、この場所自体は何度も来たことがあった。
哲也はファーブル昆虫記を読んだときに、ここを思い浮かべていた。
クワガタがとれるから来ていたが、草原のあちこちに牛糞が落ちていて、かなりにおいもするので、本当なら行きたくない場所だった。
しかし、フンコロガシの話を読んで、哲也は無性に糞虫を見たくなったのだ。
哲也は休日に備えて準備を整えた。
ばあちゃんからゴム手袋をもらった。
子供のころ、山から竹をとってきて、よくみんなで竹とんぼなんかをつくっていたのだが、今回は竹べらをつくってみた。
装備を整え、休みの日の午前中に哲也は動き出した。
目指す先はもちろん牛がいる草原だ。
道中、哲也は糞虫のことばかり考えていた。
見つかるだろうか。そう思うと不安でたまらなかった。
例の鉄条網の破れた敷地のすみに到着した。
期待と不安が入り混じった表情を浮かべ、鉄条網の外から草原を見つめた。
数十メートル先に糞が点々と落ちているのが見えた。
牛や人の姿は見えない。
「絶好のチャンスだ!」
哲也は意を決して、普段なら真っ先にチェックするクヌギの木には目もくれず、牧場内に入っていったのだ。