哲也はばあちゃんから、使わない小さめのコップをいくつかもらった。
それに水を入れ、例の虫かごの土の上に置いた。
それから、いつもバッタをとる草むらまでいき、すじがまっすぐの葉(平行脈)を茎からかりとってきた。
花は水につけておくと長持ちする。
なら、葉っぱもそのはずだ。
仏壇にあげる花は、ばあちゃんが茎をななめに切って、花瓶にさしていた。
じゃあ、同じようにすればいいんだ。
で、コップの中にそれらの葉っぱをさしてみた。
なんとなく生き生きしてる気がする。
何より、入れてふたをするとすぐにショウリョウバッタはその葉をかじりだした。
「うまくいった!」
哲也は飼い方をやっと見つけたと思った。
この状態なら、何匹かいっしょに入れてもいいのでは?
というわけで、また哲也は網を持ってでかけた。
さっき、葉っぱを刈り取りに行った草むらだ。
キチキチキチッ
音が聞こえた。
「キチキチバッタだ!」
哲也は音がしたほうを見た。
バッタが着地する場所が見えた。
網をかまえ、そーっとその付近に近づく。
ゆっくりと近づいていくと、葉にとまるキチキチバッタが見えた。
バシュ!
哲也は網を振った。
「入った!」
バッタは網の中で飛び跳ね、網にぶつかっている。
哲也はそれを網の上からつかみ、傷つけないように慎重につかんだまま
左手を網の中に入れて、そいつを直接つかんだ。
「よし!とれた。」
哲也はすぐに虫かごに入れ、まじまじと観察した。
「う~ん。似てるなぁ。」
そう、大きさは小さいものの、やはりショウリョウバッタとよく似ている。
このとき、哲也はふと思った。
同じ種類で、オスとメスなんじゃない?
キチキチと音を出す少し小さめのキチキチバッタ。
どっしりとした重量感をもち、音を立てずにとぶショウリョウバッタ。
あてずっぽうではなく、哲也なりの理論があった。
カマキリはオスがメスより小さい。
コオロギやキリギリス、セミなどはオスしか鳴かない。
こうした事実から、音を出し、小さいからだのキチキチバッタはオスではないか?
そう思ったのだ。
哲也はこれを確かめる絶好の機会だと思った。
例のショウリョウバッタと、このキチキチバッタを一緒に飼い、交尾するかどうか見る。
そしてうまくいけば、産卵までしてくれると確実だ。
哲也はそのまま持ち帰り、ショウリョウバッタの家にキチキチバッタを迎え入れた。
そして、その日はほかのバッタはとらなかった。
最初はいろんなバッタを一緒に飼ってみようと思っていたのだが、そうするともし産卵してもどれとどれの子かわからなくなるかもしれない。
ショウリョウバッタとキチキチバッタのみを入れていれば、もし子供が生まれれば絶対かれらの子供たちということになる。
そう考えたのだ。
※一見正しそうなこの考え、当時の哲也は信じて疑っていなかったが、本当はこの考えは正しいとはいえない。今の自分にはわかるが・・・。そう、メスはこのキチキチバッタと一緒に過ごす前に、野外で別のオスと交尾している可能性がある。その点はこの時点の哲也には想像できていなかった。
とにかく、哲也は2匹の飼育をはじめた。哲也の頭の中にはただただ真実が知りたいという欲があった。
キチキチバッタを入れると、すぐに草にとりついた。この家になじんでくれそうだ。