哲也は、コップに水をはって、そこに松の枝を挿した。
そして、例のウバタマムシを飼ってみた。
枝に登ったり、皮や葉をかじるようなそぶりを見せていたので、安心した。
しかし、そのウバタマムシは数日で死んでしまった・・・。
エサが悪いのか、環境が悪いのか・・・。
はたまた、単に寿命だったのか・・・・。
これについては今も答えはわからない。
と、哲也の飼育失敗の話はさておき、父がついに松の木の残りも処分するというので、哲也も見に行った。
もろいところがあぶないので、上から20cmずつくらいカットして、それぞれ燃やして処分するという作戦だ。
木はかなりもろくなっていて、前回は硬くて切るのが大変と言ってた父だったが
「こりゃカンタンや。」
と軽々とカットした。
父はその木片をコロンと転がした。
哲也はその木片を見た。
「なんか、穴がたくさんある。」
見ると、切り口にはたくさんの穴があり、木くずもつまっている。
「もしかして?」
哲也はナタを持ってきた。
このもろさなら哲也にも割れそうだ。
カンとたたくと、木が割れた。
そしてそこには・・・・。
「タマムシの幼虫!」
哲也は図鑑で見たタマムシの幼虫を発見した。
もしかすると、この木はウバタマムシの産卵木になっていたのでは?
次の木片が父によって転がされた。
哲也はそれも割ってみる。
さっきのより根元に近く、さらにやわらかい。
「あっ!蛹!」
おそらくタマムシであろう、蛹がいた。
また形の違う幼虫も現れた。
「カミキリの幼虫!」
哲也は興奮しっぱなしだった。
図鑑でしか見たことのないものが今目の前にたくさん出てきている。
「すげー!」
カミキリムシは哲也はこの木で発見したことはなく、蛹や新成虫も出なかったため、種類まではわからなかったが、タマムシの幼虫に似ていて、でもなんかずんぐりしていて、間違いなく図鑑でみたカミキリムシの幼虫であった。
しかし、ここで問題が発生した。
これらをどうやって飼えばいいのか・・・。
成虫にするすべも知らない。
困っていると、父が一言。
「その木の中で生きちょんのやけん、その木のまま飼えばよかたい。」
「なるほど!」
哲也はそんなこと考えつかなかった。
「ありがとう!」
父は、ケースに入れやすい大きさにカットした木を2,3個つくってくれた。
で、大きめのケースにそれらを入れて、湿気がなくならないようにクワガタを飼うときに使ってたオガくずを入れた。
そして、そのまま放置した。
翌年、哲也はその存在をほぼ忘れていたのだが・・・。
なんか急に思い出して、かごを見てみた。
「ウバタマムシだ!」
そこには地味だけど、なんか光沢があるあのウバタマムシがいた。
そのまま待ってみたが、結局出てきたのはそれ1匹だった。
しかし、哲也はその1匹を死ぬまで大事に育てた。
じいちゃんが亡くなるのと時を同じくして枯れてしまった、じいちゃんの松の木。
このウバタマムシはじいちゃんからの贈り物ではないか?と哲也は思った。