哲也の福岡一周釣り行脚 ~三平にあこがれた少年~ ①三段池の野鯉 その3

そよそよと風が哲也の髪をなでる。

哲也はなかなか音が鳴らない鈴を、焦りと不満からうらめしそうに眺めた。

静かだ。ただただ静かだ。

車道から遠いわけではないが、なぜかほとんど車が通らず、人も来ない。

長い時間池にいると、なんらか魚が跳ねたりして音がするものだが、そんな音も入ってこない。

このまま永遠に静寂が続くのではないか?との錯覚にとらわれる。

ほんの少し前まで、釣れない状況を打破したいと、あれこれ策をめぐらせていたのに、なんかそれさえも面倒くさい。

少しふてくされたように、哲也はまた帽子を顔にのせ、鈴が目に入らないようにした。

そして目をつぶった。

そのうちうとうとしはじめていた。

チリンチリン。

かすかに鈴の音が鳴った気がした。

しかし音が小さすぎる。魚がかかったのならもっと大きな音がするだろう。

泳いでるマヌケな魚が糸にぶつかったんだろう。

そんなことを考えて、哲也は再び目を閉じた。

チリンチリン。

今度は間違いなく鳴った。さっきより大きな音だ。

哲也は慌てて体を起こすと、竿先の動きや鈴に注目した。

アタリかもしれないが、必ず魚が針を咥えるとは限らない。

慌ててリールを巻けば、針を飲む前にしかけを上げてしまうことになる。

吸い込み釣りの獲物は、もちろんコイの場合もあるが、正直確率は低い。

そのほとんどがフナである。

経験上、フナがかかった場合は次の2つのパターンが多い。

1つは鈴が鳴ったあと、ガチャガチャとさらに音を立てながら、竿を引っ張る場合。

この時はすぐにかかったとわかる。

もう1つは鈴が鳴ったあと、糸がだらんと張りを失い、鈴の音がとまる。

おそらく針にかかったあと、岸に向かって泳いだものと思われる。

哲也は竿先をじっとにらんでいた。

本日初のアタリかもしれない。

竿を引っ張るのか?糸がたるむのか?それとも針を咥え込まず、エサだけ堪能して逃げるのか?

哲也は待つしかない。

ただただ竿先をにらんだままの時間が続く。数分経っただろうか?

音はならない。

「ダメか・・・。」

哲也はあきらめたように、竿から目を逸らせた。

今日はダメは日なんだろう。

今のエサは投げ込んでまだ10分ほどだ。

えさが溶け落ちるまでおそらく30分かかるかかからないかくらいだろう。

哲也は時計を見た。

「よし、あと20分したら帰ろう。」

そう決めた瞬間!

ガチャン!

ものすごい音がした。

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