哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑩トンボ釣り その3

哲也が考えたのはチョウなどの昆虫をとらえて、それをえさにトンボを釣るというものだ。

ただ、普通に竿を振り回してもおそらく自分が丸見えでトンボは寄ってこない。

しかし、さらなる秘策があった。

哲也の家の畑には、今は枯れてしまってるが、当時4mほどの高さのヒノキが4本ほど立っていた。

さらにそのヒノキの後ろには哲也の背くらいの高さのブロック塀があった。

哲也はいつもその塀によじ登り、そこからヒノキの枝に手をかけて木登りして遊んでいた。

セミを捕まえたりもできるし、何より眺めがいい。

約10m四方の畑を一望できるので、いろんな生き物を発見するのにも役立った。

今回はそのヒノキに登り、枝に座ってそこから竿を下ろす作戦だ。

これだと、哲也はトンボのようすを上から見ることになる。

トンボからは見つかりにくいし、竿でエサにするチョウを操作しやすい。

まずはとにかくやってみることにした。

チョウを弱りにくいように木綿糸でしばる。

しかけができたら塀に竿を立てかけてブロック塀に登る。

そのあと、竿をつかんで持ち上げてブロック塀の上にのせて、木に立てかける。

そのまま今度はヒノキに登る。

そして竿を回収したら体勢を整える。

そしてトンボが飛んでるそばにチョウを誘導するように竿を動かす。

チョウはヒラヒラと飛んでいる。

そこにシオカラトンボがやってきた。チャンスだ!

シオカラトンボはチョウのまわりを少し旋回し、そのあと一気にまっすぐチョウにとびついた。

来た!哲也は竿を上げる。

しかし、トンボはチョウを離し逃げて行った。

なるほど。魚釣りのように針にひっかけるわけでもない。どうやって回収するんだ?

哲也は考えた。そして網を持ってきた。

またしかけをつくりさっきと同じ方法で、今度は竿と網を木の上まで運ぶ。

そしてまたトンボを釣る。

ウスバキトンボがやってきた。この畑で最も多く見るトンボだ。

チャンスが来た。

トンボがチョウに飛びつく。

そこを狙ってチョウごとトンボを網に入れる。

「やったー!」

うまくトンボを手に入れた。

しかし待てよ。確かに釣ることはできた。だが網を使う分手間がかかる。

なんかそのまま網でとればいい気がしてきた。

とりあえずもう一度やる。

ここで哲也は急にだまりこんだ。

オニヤンマだ。

眼下にオニヤンマが来た。

網と竿両方使うのめんどくせぇ~。

なんて思考は今はナシ!

とにかくオニヤンマをとる!

哲也はゆっくりと竿を動かし、チョウを飛ばす。

オニヤンマは旋回していたが、急にヘリコプターのように空中静止した。

チョウに気づいたのだ!

慌てず息を殺して竿を握る手に力をこめる。

来い来い!

頭でそう念じる。

オニヤンマは急に向きを変え、チョウに突進する。

つかんだ。今だ!

哲也は網をふるった。

「入った!」

あの捕獲成功率の低いオニヤンマを一発で手にした。

方法は間違っていない。

だが、またあのめんどくさい状態を思うと、哲也はふぅとため息をついた。

そのとき、ふとオニヤンマのおしりを見た。

「針のようなとんがったものがある。メスだな。」

そのとき哲也の脳に電流が走る。

これだ!

哲也はいったん降りて今度はそのメスのオニヤンマを木綿糸でしばった。

チョウよりも丈夫で強いので、少し強めにまいた。

哲也が考えたのは、メスでオスを誘引するというものだ。

エサ(チョウなど)を使うなら、離せばにげられるし、それを防ぐため網が必要。

でも交尾中なら・・・・。

哲也はこれまで何度もトンボの交尾の場面を見ている。

ちょっとやそっとじゃ離れそうにない。

哲也はこれならうまくいく!と確信した。

そしてまたヒノキへと登っていく。今度は網を持たずに。

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