哲也はいつもの砂利道に立っていた。
よく見れば、この日もハンミョウはいる。
今日はこいつらの秘密を暴いてやる!
哲也はそう息巻いていた。
ハンミョウの成虫をよく見るのは、先述のとおりこの砂利道とその周辺。
砂利道の脇にある草むらの外側にある固い土の原っぱ。
そして、原っぱの脇を流れるコンクリートで固められた用水路のまわり。
この通りを抜けると、まったくいないわけではないが、極端に数が減るのは明らかだった。
間違いなく原っぱか用水路に秘密があるとにらんでいた。
哲也は草をかきわけると、固い土の原っぱの上に立った。
そしてまずはあたりを見渡す。
ときどきハンミョウが這ってるのが見える。
意気込んできたものの、何から手を付ければよいかわからない。
きょろきょろしながら途方に暮れる。
そもそも何を探せばいいのか・・・。
哲也はもっとちゃんと下調べをしておくべきだったと後悔した。
本や図鑑でハンミョウのことをもっと頭にたたきこんで来ればよかった。
だが、哲也はすでにフィールドにいる。
何か行動するしかない。
とりあえずは固い土の原っぱを歩く。
まわりをキョロキョロしながら一度端から端まで歩いてみた。
とりあえず何も見つからない。
もう一度歩く。
今度は下を見たり上を見たり、目線を変えて歩く。
何も見つからない。
自分のレベルでは何もできないのか?
哲也にはファーブルのような知恵も根気もない。
結局、少々昆虫が好きなだけの普通の少年なのだ・・・。
なんか悔しかった。
哲也はふてくされたようにその場にすわりこんだ。
歩き回って足も疲れた。
ついでに少し休もうか・・・。
そう思いつつ、ふと見ると1匹の小さなカエルがピョンピョンと前に進んでいるのが見えた。
「かわいいな。」
哲也はなんとなくそのカエルの行先を見つめていた。
体長1cmか2cmかそこらの小さなカエルだ。
そのカエルがジャンプをやめ、立ち止まった。
せっかくだから今日はカエルでもつかまえてみようか?
などと考えていた。
そのとき、カエルが不自然なかっこうになり、土にへばりついた。
「なんだ?」
思わず声をもらした。
見ていたがそのカエルはジャンプもせず、横腹が地面に吸いつけられるようにからだを傾けたままの状態になっている。
足をばたつかせているが、その場から動かない。
何かが起こっている。
哲也はゆっくりとそこに近づいた。
どうやらそのカエルは地面にある穴に引き込まれているようだった。
「なんかいる?」
そう思ったとき、ふとその近辺を見ると・・・。
地面に小さな穴がたくさんある。
「なんだ?」
その穴をよく見ると、中になにかいるのが見える。
毛だらけの黒い頭に、ぎょろりとした目がついた丸いやつ。
そのとき、かすかに図鑑のあるページを思いだした。
「もしかしてハンミョウの幼虫か?」
哲也は確信はしていないものの、そう思った。
先ほどのカエルはからだが変に折れ曲がり、おなかの一部が穴の中に入って、悲しげに手足を動かしてもがいている。
おそらくもう逃げられないだろう。
哲也は父の教えにより、こういうときに手を出してはいけないということを守らねばならない。
父の教えとはカンタンに言えば
食べられる側だけをかわいそうと思うことが間違ってるということだ。
食べる側はえさを逃せば生死にかかわる。
どちら側も必死に生きている。
片方の味方をするのはおかしいという考え方だ。
哲也はとにかく観察を続けた。
そのうちカエルは手足を動かすこともほとんどしなくなった。そして穴の中に引きずり込まれた。
このとき哲也にはある考えが浮かんだ。
とりあえずこの日は帰ることにした。
一つはこいつがハンミョウであることを、図鑑をよく見て確かめること。
そしてもう一つは、いろいろと準備をしなきゃならないこと。
それらがひとまず帰る理由である。