今日はいよいよ父が夜にクヌギのある林道に連れていってくれる日。
いてもたってもいられない!
晩御飯なんか、何をどう食べたかも覚えていない。
早く行きたい!そればかりだった。
そんな哲也を察してか、日が落ちて暗くなった20時ごろ
「行こうか。」
父は哲也に声をかけてくれた。
「うん!」
長袖長ズボンにタオルに帽子。
靴を履こうとすると
「長靴はきんしゃい。マムシがおったらいかんけん。」
そう言われ、哲也は長靴に足を通した。
父も作業用のごっつい長靴を履いていた。
それから哲也は小さめの懐中電灯を持たされた。
「これやるけん、大事に使わなよ。」
「うん!」
哲也は嬉しかった。なんか少し自分が大きくなった気がした。
父は大きい懐中電灯を持ち、哲也は小さな懐中電灯を持つ。
そして並んで目的地に向かった。
家からさほど遠くない、歩いて10分から15分ほどのところだ。
その道中も楽しかった。
父と夜に出かける。こんな状況が嬉しかった。
目的地に近づくと、それまで父となんかしら話していた哲也だったが、声を押し殺した。
虫に自分たちが気づかれるのでは?と思ったからだ。
1本目の木に着いた。ゆっくりと懐中電灯を木に当てる。
「うわぁ・・・・。」
声に出したか出さないかわからないほど小さな声でうなった。
明かりに照らし出されたのはカブトムシたち。
カナブンや小さなクワガタ、ほかにもいろいろいる。
哲也はしばらく動けなかった。
感動してただただその場面を見つめたままになった。
「逃げんうちにとらんと。」
父の声にはっと我に返った。
父と一緒に次々にカブトムシやクワガタをかごに入れていった。
2本目も3本目も同じ状況だった。
この林道沿いにはクヌギが5,6本ほど並んでおり、そのどれもが樹液をあふれさせていた。
そしてそのどの木にもカブトムシやクワガタがついていた。
夜の採集がこんなにすごいとは・・・。
哲也は嬉しくてたまらなかった。
「連れて来てくれてありがとう。」
「よかよ。」
照れくさそうに言った父の顔は今も忘れられない。
保育園児が、灯火採集を覚え、累代飼育に成功し、夜の樹液採でも成功をおさめた。
父や近所のにいちゃんなど、周りの協力あってこそだったが
哲也はとにかく自分はすごい昆虫博士にでもなった気分であった。
しかし、その天狗の鼻を折られる事態が発生する。