若き日の父。 それは家族から聞いた話、父本人から聞いた話、そしてわずかに残る父の写真から想像したものしかわからない。 少年時代、次男として宮脇家に生まれた父は、勉強ができ、スポーツもできる子供だったらしい。 ※長男は詳しい説明を省くが、当時失踪し居場所がわからなかった。のちに見つかるがその話はここでは割愛する。 そろばんが得意で、何段だったか忘れたが昇段試験なども受けていたらしい。 そのあたりは、合格時に撮った写真や、証書などもあることから本当だと思われる。 実際計算するときには、宙で指をそろばんをはじくかのように動かしながら暗算していた。 事実、計算がめちゃめちゃ早いことは間近で見てきた。 我慢強い人で、こんな逸話がある。 修学旅行でおこづかいをもらってでかけたのだが、好きなものも買わず、食べたいものも食べず、修学旅行中に出された食事だけを食べて、おこづかいはまるまる全部持って帰ってきたそうだ。 こんなこと、哲也にはできない・・・。 痩せてたが筋肉質で、力も強く短気な性質で、けんかっ早い。 そのため何度か学校ではけんかをして、ばあちゃんが出向くことになったそうだ。 自称、女の子にはモテてたらしい。 ばあちゃんもそう言ってたから、もしかしたらそうなのかもしれない。 中学でそれなりに成績が良かったことから、先生に高校を勧められたそうだが、家の経済状況が裕福なわけでもなく、ねえちゃん(=父の妹、哲也のおば。なぜねえちゃんと呼ぶかは→コチラ)もいたのですぐに働くことにしたらしい。 土方やいろんな作業現場で働き経験を積み、最終的には普通の免許だけでなく 大型や大型特殊免許もとり、トラックやトレーラー、クレーン車などを扱う運送会社に勤めていた。 いわゆる「トラックの運ちゃん」である。 本当は板前になりたかったらしく、自分なりに勉強したみたいだが、そういう状況だったため断念し一家を支えてくれていた。 本編でも詳しく述べていくが、料理の腕は本当にすごかったと思う。 魚はもちろん、鳥や獣も捌く。 ばあちゃんやねえちゃんがつくる料理も大好きだったが、たまに父がつくると心が躍ったのを今も覚えている。 とにかく、そうしてトラックの運転手となった哲也の父。 運転は長距離のときもあり、数日帰らないこともしばしば。 そんな中、いわゆる哲也の母と出会ったと。 結婚したとき、実家から離れて暮らし始めたらしい。 ほどなくして哲也が誕生。(ちなみに早産で1700gの未熟児であった。) 幸せな家庭を築いていた・・・。 のかと思いきや・・・。 ある冬の夜のこと・・・。 実家にて、ばあちゃんがなんとなく異変を感じ取った。 離れて暮らす父が停めるはずないのに、駐車場に車が停まった気がしたらしい。 ※駐車場は哲也の実家から100mほど離れていた。 父がなんらかで帰ってきたのなら、そのうち家に入ってくるはずだ。 だが一向に誰も入ってこない。 なんとなく気になったばあちゃんは駐車場まで歩いて行った。 すると父の車が停まっていた。 それなのに誰も降りてこない。 不思議に思ったばあちゃんは慌てて駆け寄ったそうだ。 すると・・・。 中では高熱でうなされ動けなくなった父と、同じく熱を出して真っ赤になった赤ちゃんが乗っていた。 そう、その赤ちゃんこそが哲也である。 父の意識も朦朧としていたらしいが、赤ちゃんのほうも泣くこともなく、ただひぃひぃと呼吸しているだけの状態だったようだ。 すぐさま救急車を呼び、病院に運び込まれた。 二人とも結構危ない状態で、特に赤ちゃんはあと1時間も放置していれば死んでいただろうと・・・。 まさにばあちゃんの機転で二人とも助かったのだ。 このとき哲也はわずか生後4か月。 回復した父の話によると、赤ちゃんが生まれたとたん、嫁の育児放棄が始まったようだ。 数日に一度しか帰らない父は、帰ってくるたびに哲也が放置されており、何度も注意したり叱ったらしいが、改善しなかったようだ。…
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