「おーい。釣れるか?」 突然声がした。 振り向くと、通りがかったおじさんがこちらを見ている。 「助けてください。」 思わず哲也はそう答えた。 釣れるか?の問いに助けてくださいって・・・。 とはいうものの、このときの哲也に出せる声はこれだけだった。 何も考えず、大人が今そこにいることを認識し、自然と発した言葉だ。 おじさんはかけよってくると 「どうした?」 と話してくる。 「大きなコイがかかって、もう限界なんです。」 おじさんはすぐに哲也が持つ竿を支えた。 「おいちゃんが竿立てとくけん、ボウズはリール巻け。」 哲也はうんとうなずくとリールに手をかけた。 力はもう残ってなかったが、ものすごい安心感で満たされる。 「おいボウズ。」 今度はおじさんはふみちゃんに声をかけた。 「お前は網もってかまえとけ。」 「はい。」 そう言うとふみちゃんは網をかまえた。 本当に心強い。 竿を立てる。リールを巻く。網に魚を入れる。 本来ならこれらを一人でしないといけなかった。 これまでの状況から、このときの哲也の力ではこれは無理だった。 しかし今は助っ人が二人だ。役割までしっかり決まった。 瞬時にこんな采配をしたおじさんはすごい!と思った。 ただ、安心していいわけではない。 まだコイとの戦いは終わっていない。 哲也は握力を失った手で、再度力をふりしぼりリールを巻いた。 コイはまだ抵抗を見せるものの、重いだけで力が確実に弱まっている。 それでも今の哲也より充分強いが、体力充分かつ力持ちそうなおじさんの登場で状況は一変した。 哲也はとにかく巻いた。手はすべての指が真っ赤になっている。 それでもとにかく巻いた。 コイはついに水面に横向きになったまた寄ってきた。 やはりでかい! だがさっきほど怖くはない。なにせこちらは3人いるのだ。 哲也は二人を信じ、そして自分を信じ最後まで巻いた。 ついに手が届く距離まで寄ってきた。 ふみちゃんが狙いをすましている。 前にも書いたが、ふみちゃんは釣り勝負で哲也より釣果が良いことが多い。最大の理由は哲也と違い器用だ。 いつも臨機応変に工夫して、哲也の一歩先をいく。 それにいつも歯がゆい思いもしてきた。釣りのたび今回も負けたと思いながら帰ることが多かった。 しかし、今はそんな彼が頼もしい。 哲也は信じてそのときを待った。 シュッと網を降る音がした。 「入った!」 ふみちゃんの声が響き渡る。 コイはその頭を情けなく網につっこんでいた。 さすがの大きさのため、しっぽははみ出していたが、なんとかきれいに収まっている。…









