ある休日。哲也はすでに行先を決めていた。 そう、あのヤマメたちを見た川だ。 またあの過酷な山道を自転車押しながら登らねばならない。 しかし、あのヤマメが泳ぐ光景を思い出すと、そんなことは全然苦にならなかった。 哲也はまたばあちゃんにおにぎりをつくってもらい、朝早くに家を出た。 仕掛けは2通り考えていた。 ウキ釣りかミャク釣りだ。 川の深さや流れも遅いことを考えればウキ釣りが良いだろうと思っていたが、とにかく水は透き通っていたし、魚からウキが丸見えになるだろうから、警戒されたら変えるしかないと考えた。 哲也は汗だくになりながら目的地に着いた。 それから水筒にも手を付けず、とにかく急いで釣り支度を始めた。 早く釣りたい。そういう気持ちの表れだ。 エサはミミズとハチの幼虫(いずれも自宅調達)、ねりえとクリムシ(買ったもの)を準備した。 最初はねりえでウキ釣りしてみた。 最初寄ってきたが食わない。 しばらくして竿を上げるとエサが溶け落ちてる。 これじゃらちが明かないと思い、ハチの子にしてみた。 これも空振り。 クリムシもミミズもダメだった。 「見えてるからか?」 哲也はミャク釣りのしかけに変えることにした。 そしてミミズをつけ、さらにエサを投げ込んだ後は置き竿にした。 竿を持って橋に立つと、ヤマメにモロバレだろうと思い、置き竿にしてしばらくその場から離れて待つ作戦だ。 10分ほど経っただろうか。哲也はゆっくりと竿に近づいた。 「おっ。糸が張ってるぞ。」 竿をつかむとブルブルと振動が伝わってきた。 「かかってる!」 あげると銀色に輝く魚体が! そしてあのきれいなパーマークが見える。 「やったー!」 手にしたのは10数センチのヤマメだった。 その作戦で、哲也は4~5匹のヤマメを釣ることに成功した。 ただ、川の中には20センチ近いものも見えているが、かかるのは10数センチのものばかり。 そしてなかなか釣れなくなった。 さすがにせまい範囲なので、異変を感じ取って警戒しはじめたか・・・。 このとき、哲也はある疑問を持った。 どの本にもヤマメなどの渓流の魚は警戒心が強く、すぐに物陰に隠れるとか書いてあるのに、こいつらはそんなそぶりがない。実際今は食いがとまったが、最初カンタンに釣れたし。 ただ小さなものばかり釣れて、同じ場所にいる大き目のものは釣れないのも不思議だった。 とりあえず警戒心を解くため釣り場を休ませよう。 そう考えた哲也は昼食をとることにした。 時間ももう11時を過ぎている。 座り込んだ瞬間、なんか一気に疲れが出た。 そりゃそうだ。かなり長い距離、ひたすら自転車を押して登ってきたのだから。 ふうとため息をつきながらばあちゃんのおにぎりを取り出す。 またもや申し訳ないと思いながらほおばった。 おいしくてまた感謝の気持ちがあふれ出した。 塩のきいたおにぎりが、疲れた体に染み渡るようだった。 食べ終わり、再開しようとしていたところに一人のおじさんが通りかかった。 竿を持っている哲也におじさんは 「釣れたか?」 と声をかけてきた。…








