そもそも哲也はカブトムシをどのように飼っていたのか?
図鑑や本でカブトムシの飼い方というページがある。
そこには容器にオガを入れ、登り木などを立てておく絵が載っている。
哲也はこうすればいいと思い、それら本の内容を再現することを心がけた。
オガについては、どのようなものがいいかは触れておらず、もぐる深さがあればいいと思った。
実際、図鑑の絵では深さ5センチほどしか敷いてない。
哲也はオガを近所の製材所でもらってきていた。
父と顔見知りである製材所のおじちゃんたちは、何度いっても優しく
「いくらでも持っていっていいそ!」
と言ってくれる。
ここで、カンの良い方はわかるだろうが、一般的に木材に使う木はスギやヒノキなどの針葉樹が多い。
つまりこの製材所でもらうオガは針葉樹なのだ。
この時点で哲也は知らなかったが、カブトムシは針葉樹のオガには産まない。
そうとは知らず、哲也は毎日疑問だった。
飼い方はちゃんと本の通りにしてるし、交尾も確認した。
なのになぜ卵産まないんだろうか?
それからもいろいろ本を読んだりしていた。
そのとき、ある本でこんな文章を目にする。
カブトムシは夏の終わりになると腐葉土に卵を産む。
というものだ。
腐葉土。それなら産むかもしれない。
しかし腐葉土なんてどこに?
朝、ばあちゃんと話してるときにふと
「腐葉土ってどこにあるか知っとう?」
と聞いてみた。
すると、
「時々買ってきて畑にまきよんばい。」
買ってる?畑にまいてる?
全然知らなかった。
ばあちゃんによると、基本畑の土に肥料を与えればほとんどの花や野菜が育つらしいが、一部腐葉土をかぶせた土のほうがよく育つものがあるらしい。
で、大きな袋をときどき2つ、3つ買ってくるんだとか。
「ばあちゃん!腐葉土少しもらってよか?」
「よかばってん、何にすると?」
「カブトムシは腐葉土に卵産むって本に書いとうとよ。」
ばあちゃんは袋の場所を教えてくれた。
好きなだけ使っていいらしい。
とりあえず哲也はオガを腐葉土に替えた。しかしそれでも産まなかった。
結局この年卵は見れなかった。
翌年も運よくカブトムシを手に入れることができた。
今回は哲也には策があった。
実は近所のにいちゃんで、カブトムシの産卵に成功してる人がいて話を聞いていたのだ。
「カブトに卵産ませたいんやったら、大きい入れ物に深く腐葉土入れたほうがよかよ。」
この話を聞いて、どうするか考えていたが
ねえちゃん(=おば:父の妹。同居していて母のように面倒みてもらってた。ねえちゃんの希望でおばちゃんはいやだということでねえちゃんと呼んでいた。)の案で解決した。
使わなくなった衣装ケースを使うという案だ。
ねえちゃんは古い衣装ケースを1つくれた。
哲也はそれに腐葉土を深々と入れた。
そこにカブトムシをはなった。この広さなら大丈夫だろうと、オスメスそれぞれ複数、全部で10頭ほど入れた。
前のやり方と違い、すぐにカブトムシを見れないという点をのぞけば、素晴らしい方法だ。
ただ、エサは大変だった。バナナ1本が一晩でなくなるほど減る。
それでもなんとか、家族は協力してくれ飼育を続けた。