哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑨哲也とカブトムシ その10

色が黄色くなり、からだがぶよぶよになり、屈伸運動を繰り返す。そしてエサを食べたりもぐったりしない。

そう、この状態は前蛹(ぜんよう)とよばれる状態である。

このころの哲也はそれを知らなかった。

カブトムシ幼虫は成熟すると、たてに長い楕円形の部屋をつくる。ふんをぬりつけたり、からだをこすりつけたりして、かなりなめらかで固い面でおおわれる。これをつくるのにかなりの体力を消耗する。

そして部屋を作り終えると、先述の状態になり、部屋の中で屈伸運動をしながらすごし、ある時期になるとからだを硬直させるようにピンと伸ばして脱皮。蛹へと変化する。

こういうった虫を飼っているとまれにあるのだが、部屋をつくらずに土の上で前蛹になることがある。

おそらく、部屋をつくる場所を探し回り、気にいったところが見つからず、からだのほうが先に変化しようとするため、しかたなく土の上でなるものと思われる。

こうなると、ほおっておくしかない。

しかし、哲也は心配したあげく、さわりまくったり、土をかぶせたりしてしまったのだ。

これはかなり体力を奪ったことだろう。

ある日、ようすを見ると、それは動かなくなっていた。

死んでしまったのだ。

もしかすると、蛹になる直前の動かなくなる時期だったのかもしれないが、その当時の哲也はそんなことは知らない。

今となっては死んだのか、動かない時期だったのかわからないが、結局その幼虫をダメにしてしまった。

この日以来、哲也は自分がすごいと思うのはやめにした。

それから哲也は多くの経験を積んだ。

いろんな情報から、カブトムシやクワガタのとれる場所をたくさんインプットし、おそらく30か所以上は知っていたと思う。

その日の気分に合わせて、好きなところにとりに行った。

冬場の幼虫採集も、何か所か場所を見つけた。

また、夜じゃないといないと思っていたカブトムシだが、昼間も結構樹液にきていた。

ただ、昼間の採集はスズメバチを避けながらの採集となり、恐怖との闘いであった。

まあ、夜は夜で暗闇やマムシにおびえながら山に入ってたんだが・・・。

哲也はカブトムシを採集したり、飼育したりすることがずっと好きであった。

まあいい歳した今もやってるんだが・・・。

子供のころよりは、飼育や採集のウデは多少マシになってると思うが、今もときどき思い出す。

あのころ、

カブトムシがほしい!

カブトムシを育てたい!

そう思いつつ、山に入ったり、いろんな飼育の仕方をためしたりした。

そのときの記憶は今も色あせることなく、心に刻まれている。

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