哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑬カマキリの累代飼育 その2

あこがれのカマキリ。

その中でも大好きなオオカマキリのオスとメスを同じ日に手に入れるという幸運に見舞われた哲也は、彼らの一挙手一投足に注目した。

広い虫かごがせまく感じるほど、カマキリの存在感はすごかった。

特にメスはやはり大きい。

オスのカマキリがバッタに狙いを定めている。

カマをしっかりとかまえたまま、ゆっくりとからだをゆらゆらさせつつ獲物に近づく。

そのとき、バッタがピョンとはねた。

その瞬間!カマキリのかまはそのバッタをしっかりと空中でとらえた。

バッタは足をバタつかせているが、かまががっしりとからだをとらえ、動くことができない。

カマキリのオスは満足げに、口の横にある触覚を動かし、えものにかじりつき始めた。

足をピンピンさせていたバッタだったが、その動きは次第に鈍くなり、やがて動かなくなった。

頭や胴の一部が失われたのだ。

かわいそうではあったが、やはりこの強さに感服してしまう。

「すげー」

哲也は周りに声がもれるかもれないかくらいの小さな声でうなった。

そのうち、バッタはばらばらになり、ほとんど全身がなくなり、羽や足の一部が無残にも地面に散らばっていった。

カマキリのオスは、自慢のかまを手入れするように、自分の口でなめている。

メスのほうにも動きがあった。

メスも同様にバッタをとらえて食べ始めた。

このことは哲也を大いに安心させた。

飼育環境が良いということを表しているのだと思ったからだ。

次の日、学校から帰ったときのことである。

哲也はカバンを置くとすぐに、カマキリの家の前に張り付いた。

するとなんと!

交尾しているではないか!

メスは哲也が用意していた棒につかまり、上を向いてじっとしている。

オスはそのメスの背中にしがみついている状態だ。

「やった!交尾成功だ!」

哲也は息をのんで、観察を続けた。

しばらく、そのまま何もなかった。

哲也は本を読んで、交尾後、オスがメスに食べられるということを知っていた。

この交尾が終わると、このオスももう終わりなのかもしれない・・・。

そんなことを考えていた。

卵を産んでほしいが、オスには死んでほしくない。

そんな思いがあった。

交尾ができるだけ長く続けばいいと思っていた。

交尾の最中、離れたところで葉をかじっていたバッタがピョンとはねて、彼らのそばにとまった。

そのとたん、オスは目をきょろきょろさせはじめた。

バッタがかなり気になるようだった。その直後、哲也は忘れられない光景を見ることになる。

メスはからだをよじって、オスのかまを自分のかまではさみこみ、口のほうに引き寄せた。

そしてなんとかまのつけねをかじりはじめた。

「なんだ?急に・・・。」

そしてものの数十秒で、オスのかまは無残に地面に落ち、オスは片腕になってしまった。

不思議なのはその間、オスは交尾をやめず、されるがままだったことだ。

そして片腕になったオスに対し、メスはさらなる行動に出た。

今度は器用に体をひねり、オスの頭をかまではさんで、自分の口にひきよせた。

そしてそのままかじりはじめた。

「えっ?」

思わず大きな声を出してしまいそうだった。

オスはそれでも交尾の体勢は崩さず、抵抗もしない。

そしてついには、オスは頭を失った。

さらに、首のない状態で交尾はまだ続いた。

そのくらい時間経ったかわからないが、哲也にはかなり長いようにも、案外短いようにも感じられた。

時計なども見ていなかったので、時間の経過はわからない。

ただ、あまりにも衝撃的で、なぜか目が離せず、ひたすら見入ってしまった。

首を失っても動いているオス。

ときどき、残ったかまをふっていたが、ついにはそのかまもメスにとらえられ、根元から落とされた。

首も両腕も失った状態で、さらに交尾は続いた。

メスの驚くべき行動に、哲也は声も出なかった・・・。

本には交尾後にオスを食べるとしか書いていなかった。

だが、目にしたのは交尾中に頭や腕をもぎとるメスの姿だった。

そして、体の一部を失いながらも交尾を続ける異様な光景・・・。

この光景は、ずっと哲也の心に残り続けることとなる。

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