ナマズは哲也の大好きな魚の一つである。
哲也の住んでいた家の近くには多々良川という川がある。
今では護岸工事が進み、魚が住めない川になってしまってるらしいが・・・。
哲也の少年時代、生き物の宝庫であったその川は、貴重な遊び場であった。
水生昆虫の種類が豊富。サワガニやエビのなかまもいたし、ザリガニもいた。
カエルやスッポンなどもいた。
魚は種類が豊富で
ハヤ、オイカワ、ムギツク、フナ、コイ、カマツカ、ドンコ、ドジョウ、ヨツメ、ヨシノボリなどたくさんの魚をとることができた。
ナマズももちろんいた。
コイをのぞけば、ひときわ大きい魚で、ヒゲもありかっこいい。
ということで大好きな魚であった。
まだ小さく、釣りをやってなかったころは
ナマズといえば手づかみでとる魚だった。
シャツもズボンもビショビショにして川に入り
大きな石の下に手を入れるとほとんどの石の下でナマズが隠れていた。
最初は怖さや、あのぬるっとした感触にたまらず手をはなし、逃げられるばかりだった。
しかし慣れてくると、ナマズがいることを感じ取ったら、いきなりつかまず両手を石の下に入れてどちらが頭かを判断することを心掛けた。
ナマズのからだはご存じのように、全体がぬるぬるしていてつかみにくい。
しかし頭だけはつかみやすい部分がある。
口とエラだ。
捕まえるコツはいち早く頭側がどこにあるかを判断し、口かエラに指をつっこむことだ。
少々痛いが慣れてくる。
こうやって20cmほどのナマズをつかまえては、得意げに持ち帰ったものだ。
時には30cm級の大型もいる。
そんなのがとれたときは、眠れないほどうれしかったのを覚えている。
父はそれほど釣り好きではなかったが、ハヤ釣りが好きで、時々でかけていた。
いや、正確に言うとハヤを釣るのが好きなのではなかったように思う。
どちらかというと、ハヤを釣って食べるのが好きだったんだと思う。
そんな父が、哲也が小学生になったのを機に、釣りを教えてくれると言った。
竿も短めの竿をもらった。
父が持ってた道具は、ハヤを釣るのに十分という感じのものだけだった。
延べ竿に細い糸、ウキとよりもどしとかみつぶしおもり。そして小さな針。
知り合いと海なんかに出かけるとときは、友人に借りてたようだ。
とにかく、哲也にとって初めて自分の釣り竿が手に入った。
父に教わったとおりにエサをつけ、しかけを投げ、そしてウキのうごきをよく見て合わせる。
最初はエサとられてばかりだったが、だんだんできるようになってきた。
当然、そうするうちに楽しくなってきた。
父の釣りでは、エサは家の軒先でアシナガバチの巣からハチの幼虫をとってきたり、ねりえさを使ったりが主だった。
ねりえさもなく、ハチの子もとれなかったとき、父は畑でミミズを掘って持っていくことにした。
哲也もミミズ掘りを手伝い、一緒にでかけた。
ハヤは口が小さいので、ミミズをちぎって使う。
父の竿にあたりがきた。あわせるとすごいヒキ。
父は慎重にゆっくりとそいつを上げた。
15cmくらいのフナがかかったのだ。
糸も細く、針も小さいのにそのフナを上げたのを見て、びっくりした。
なるほど、この仕掛けでもこんなのが釣れるのか。
その日以来、哲也はミミズをよく持っていくようになった。
ときどきフナやヨツメ、カマツカが釣れた。
哲也はどちらかというと、ハヤやオイカワばかり釣れるより
いろんな種類を釣る方が楽しいと感じた。
ただ、フナの20cmクラスになるとハリスが切れたりして、釣りあげられない。
そこで哲也が考えたのは・・・・・。