哲也昆虫記外伝 ~クワガタの章~ ①ノコギリクワガタ その2

ノコギリクワガタの大あごには大きく分けて3種ある。

長歯型・両歯型・原歯型の3つだ。

長歯型というのが、大あごが長くて湾曲が強い、いわゆる水牛の大あごだ。

サイズも大型のものでよくみられる。

両歯型は、大あごが長いが、湾曲があまり強くないタイプ。

サイズは中型のものが多い。

原歯型は、大あごが太短く、湾曲もしない。

サイズは小型のもので見られる。

もちろん、哲也は水牛が欲しいのだが、そもそもつかまえたクワガタがコクワガタばかりで

ノコギリクワガタをつかまえていない。

なんとかノコギリクワガタをとりたいが、今通ってる場所では厳しい。

というわけで、哲也は気になる場所に行ってみることにした。

いつもの道沿いのクヌギたち。

そこから少し離れたところにササが伸びた雑木林がある。

その中にはクヌギの木もある。

実は、そこに自分より大きな男の子が入っていくのを見たことがあった。

確信はないが、おそらくクワガタやカブトムシをとるためだろう。

しかし、ササはそのときの哲也の背よりも大きく伸び、中がどうなっているのか見えにくい。

正直言うと怖かった。

だが、今のままではノコギリクワガタはとれないだろう。

哲也は意を決して、その中に入ることにした。

網をさかさまに持ち、柄の部分でササをかきわけながら進む。

そもそもどこに行けばクヌギがあるかもわからない。

ヒントはその場所を遠目に見たときに見えたクヌギの枝葉があった方向。

しかし、中に入ると思った以上に方向感覚がなくなる。

「このまま奥に行ったら出られんくなるかもしれん・・・。」

哲也は不安で引き返したくなった。

しかし、ノコギリクワガタの写真が頭をよぎる。

哲也は泣きそうなのをこらえて前に進んだ。

行くしかない。

泣き虫な哲也もやるときはやるんだ。

ガサガサと自分の背よりも高いササを払いながら進むこと数分・・・。

しかし哲也にはとてつもなく長い時間に感じていた。

そのとき、ポカンと開けたスペースに出た。

「うわ!すごい!」

とんでもない光景が広がっていた。

むせ返るような樹液のにおい。

大人二人で囲まないと届かないんじゃないかというほど太いクヌギ。

目の高さほどのところが広範囲にわたってでこぼこで、いたるところから樹液があふれ出ている。

そしてチョウやガ、カナブンなどの昆虫がわんさかいた。

そしてすぐに、コクワガタのオスとメスを見つけ手を伸ばそうとした。

「ん?」

手を伸ばしながら木に近づいてるとそこから少し右上にクワガタの姿が見えた。

「まさか!」

哲也は今にもつかもうとしていたコクワガタから目をそらし、その右上を凝視した。

「ノコギリだ!」

哲也は、必死にそのクワガタをつかんだ。

「やった!ノコギリだ!」

哲也の手には、小型の原歯型のノコギリクワガタがにぎられていた。

ついにノコギリクワガタを自分の力で手に入れたのだ。

その後もその木の周りをまわって、

初のノコギリクワガタのメスや

小さなヒラタクワガタのオス、

そしてコクワガタのオスやメスを数頭ずつ手に入れた。

一度にこんな数のクワガタをつかまえたのは初めてだった。

ものすごくうれしかった。

持ち帰って、カゴに入れて飼育し、あきるほど眺めた。

最初はそれで楽しかったのだが・・・・。

いつしか物足りなさを感じ始めた。

そう、ノコギリクワガタだ。

哲也がほしいのはこんな小さいものではないのだ。

その後も哲也はちょくちょくその場所に通ってみた。

しかしその夏は結局長歯型の水牛には出会えなかった。

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