哲也は草原の中に足を踏み入れた。
破れた鉄条網のあたりは普段牛もこないので背の高い草が生えているが
中央に行くほど草はまばらになり、背も低くなっている。
当然だが、牛が食べているからだろう。
少し乾いた土の上には周りの乾燥した土よりも湿っていて、色の濃い糞がところどころ落ちている。
これまで、哲也はそういうものがあることを知っていたが、まじまじとそれらの糞を見ることはなかった。
そのとき、哲也の眼には何か黒っぽい動くものが見えていた。
「いた!」
哲也は思わず叫んだ。
そして、再度牛や人がいないか周りをきょろきょろ確認した。
「よし!大丈夫だ。」
もし牛がいて、突進でもされれば大参事だろう。
哲也は慎重に確認したあと、糞のそばに近づいた。
「おおっ。」
感動でそれ以上言葉が出なかった。
初めて見るダイコクコガネだった。
「すごい!カブトムシみたいでかっこいい!」
黒くテカテカと光沢を放ってはいるが
ところどころに糞をべったりとつけている。
哲也は例の手袋をはめ、その虫をそっとつかんだ。
「力強い!」
手から逃れようと脚をバタバタさせるそいつは思いのほか強かった。
本当に糞を食べている。
こんな感動あるか?
さらに見回した。メスはいないか知りたかった。
ふと糞のそばに目をやるとなんか穴のようなものが見えた。
「なんだ?自然にできてる穴か?」
哲也は穴の上にのっている土や糞を例の手袋でのけてみた。
「!!!」
声が出ない!
すごすぎる!
穴は思ったより大きく、その中に丸い玉がいくつか見える。
ただしその玉は完全な球体ではなく、少し楕円のような縦長い感じだった。
もしかして?
卵産む場所じゃないのか?
哲也はかなり興奮していた。
糞の臭さなどもうどうでもよかった。
そのとき、玉の陰になにか動くものが・・・。
「メスだ!」
ダイコクコガネはオスはカブトムシを彷彿とさせる立派なツノがあるが
メスはつのがない。
このとき確信した。間違いなくここは産卵場だ。
それにしてもよくまあこんなきれいに丸めたものだ。
がんばって産卵しているメスには申し訳ないが、どうしても確認したい・・・。
哲也は竹べらを取り出した。