ある日、哲也はとある小川に向かった。
その川は最終的には多々良川に流れつくのだが、哲也が行く場所は本流からかなり離れたところだ。
今回の目的はザリガニ。
その川はザリガニの宝庫だった。
ある病院の裏手の水路ではニホンザリガニがたくさんいた。
しかし、哲也はそれらではなく、アメリカザリガニをとりたかった。
小さな川だが、オオカナダモなどの水草がたくさん生えていて、小魚やエビなども豊富だ。
ザリガニを釣るのも好きだったが、たくさんとりたいときは1匹1匹釣るのは面倒なので、深いところは網、浅いところは手づかみでとるのが哲也流だった。
この日もザリガニをとって楽しんでいたのだが、ふと水草のかげで何かが動いたように見えた。
「何かいるんかな?」
哲也はゆっくりと網を水草のあたりに近づけ、ガサガサと動かして、水草ごとすくいとった。
中にはエビやアメンボが入っていた。いつものことだ。
しかし、よく見ると水草のかげに見慣れないものがいるようだ。
危険なヤツかもしれない。
哲也はおそるおそる水草を網から取り除いた。
「あっ!」
哲也は思わず大きな声を上げた。
「コオイムシだ!」
そこには念願のコオイムシの姿があった。
しかも卵を背負っている。
「すげー!」
感動だった。本当に卵をオスが自分の背中で守るのだ。
哲也は何か神秘的なものを感じた。
近くにメスがいるかも。
哲也はさらに捜索した。
しばらくいろいろガサガサやってみたが、結局コオイムシはこれ1匹だけだった。
メスが見られなかったのは残念だが、哲也にとって初のコオイムシ。
ザリガニが大漁だった嬉しさは、コオイムシの発見でかすんでしまったが・・・。
哲也はしばらくコオイムシを観察した。
それからゆっくりと川に戻した。
元気な子供をたくさん孵化させて、増やして、今後もその姿を見せてほしいと思った。