ある日、哲也は友達のふみちゃんと釣りにでかけた。
ふみちゃんは釣りが好きで、虫が好きというまさに哲也と同じ趣味のなかまで、よくいっしょに虫取りや魚釣りに行く仲だった。
その釣りの最中、いろんな話をしながら釣りをするのだが、たまたまゲンゴロウの話題が出た。
「多々良川でシマゲンゴロウはおるんやけど、ゲンゴロウ見たことないっちゃんね。」
「えっ、いっぱいおるとこあるよ。」
「ほんと!?」
哲也は耳を疑った。いや、ゲンゴロウだよ。あれだけ水生昆虫探しまくったボクが、一度も見てないゲンゴロウが、しかもいっぱい?
「どこにおると?」
ふみちゃんは今度一緒に行こうと言ってくれた。
約束の日、網と虫かごをもって、ふみちゃんを呼びに行った。
その場所まではそれほど遠くはないという。
そこは田んぼに囲まれた場所で、田んぼの周りには小さな水路や、大きめの水路がいくつかあるのだが、それら水路の水が流れ込む深いコンクリートで囲まれたため池があった。
ふみちゃんが言うには
「この溝にもおるし、このため池にもおるよ。時々死んだ魚に群がっとうよ。」
マジか!そんな場所が意外と近くにあったとは・・・。
哲也はふみちゃんに案内されながら、その水路やため池をチェックすることにした。
すると・・・。
すぐに見つかった。
「おった!」
水草の間をゆうゆうと泳ぐゲンゴロウが見えた。
水深30cmほど、幅50cmほどの小さな水路だが、そんなところに普通にいた。
哲也は網でガサガサすると、あっという間にとることができた。
さらに歩き、幅1mほど、水深70cmほどの大きめの水路にもいた。
ふみちゃんの言った通り、たくさんいるようだ。
ボクは何度も探して見つけられず、レアだと思ってたゲンゴロウだが
ふみちゃんにとってはありふれた虫でいつでも見れるということで、特に気にもとめてなかったらしい。
なんかちょっとふみちゃんが、とてもすごいやつだと思った。
この日、哲也は何度もゲンゴロウを見ることができ、しかも5匹のゲンゴロウをつかまえることができた。
大満足だった。
哲也はふみちゃんにお礼をいうと、帰って水槽にそのゲンゴロウたちを入れた。
いろいろ与えると、結構いろんなものを食べた。
バッタやコオロギもたべるし、いりこも食べた。
オタマジャクシも食べた。
生きてるものも死んでるものも食べるので、結構楽だった。
ただ、交尾は確認したが、産卵などは見られなかった。環境がよくなかったのだろう。
そのうち、1匹ずつ減り、死んでしまった。
累代飼育はできなかったが、深緑に輝き、毛の生えた足で水をかきながら力強く泳ぐゲンゴロウを捕まえて、飼育できたことは哲也にとってとても楽しいものだった。
その後も時々、ゲンゴロウが見たくなったらその場所を訪れた。この場所が哲也にとって憩いの場所だったことは言うまでもない。