哲也は小さなころから釣りをしていた。
もともとは父が多々良川でハヤを釣るのについていき、教えてもらって覚えた。
基本のベ竿(リールをつけない竿)で、ウキ釣りをよくやっていた。
小3くらいのころに、父の友人がリールを使った吸い込み釣りを教えてくれて、さらに使わなくなったリールとリール竿をくれたことから、吸い込み釣りにはまった。
吸い込み釣りが好きな理由は、のんびりもできるし、忙しくもできるというところ。
のんびりしたいときは、吸い込み釣りだけやる。
ねりえをだんごにして、吸い込み針につけ、リールで投げる。
あとは竿先に鈴をとりつけ待つだけ。
忙しく、いろいろ釣りたいときは、吸いこみ仕掛けを投げ込んでおいて、岸辺でのベ竿でウキ釣りをする。
哲也がよく行っていた場所に三段池というのがあった。
文字通り、池が三段ある。もともとは農業用水をためておくためのものだが、ここに魚がたくさんいた。
魚種も豊富だった。
コイ、フナ、オイカワ、ブルーギル、ブラックバス。
テナガエビやワカサギなどもいた。
自分はここで確認できなかったが、ライギョもいるといううわさだった。
なので、ここに来て吸い込み釣りでコイやフナをねらいつつ
オイカワやブルーギルをウキ釣りで狙うという具合だ。
まったく釣れないという日が少なく、おもしろい釣り場の一つだ。
小4になったある日、哲也はまたこの三段池にでかけた。
この日はのんびり釣りたかった。
というわけで、吸い込み釣りの仕掛けだけ持ってでかけた。
三段池の中でも、コイが多いといううわさの二段目で釣ることにした。
釣り座を決めるとすぐに、哲也はねりえを水にといて、だんごをつくりはじめた。
そして吸い込み針にとりつけて準備した。
哲也は竿を握ると、大きく振りかぶってだんごを投げた。
シュルシュルと糸が出ていき、だんごは空中で孤を描いた。
そのあとボチャンと水音を立てて沈んでいった。
うまく投げれたようだ。
投げ終えると、ゆっくりとリールを巻き、糸フケをとる。(糸のたるみをとりピンと張らせる。)
そして竿を竿たてにセットし、竿先に鈴をつける。
あとはごろんと寝っ転がって待つだけだ。
こうして耳をすませながら、ぼーっと空をながめ、雲の流れを見たり、頬に当たる風を感じたりするのが好きだった。
ここ最近疲れていた哲也は、せかせかといろんな釣りをするよりも、この日はとにかくゆったりとすごしたかった。
だったら家で寝とけばいいんだろうが、やはり自然の中にとけこみたいのだ。