哲也は家に帰ってから、図鑑やら本やらを引っ張りだし、今日見たものがなんなのかを調べることにした。
いくつか見て、ハンミョウの幼虫に間違いないと確信した。
そうとわかれば、あいつをとらなければならない。
そして、カエルがひきこまれるさまを見て、作戦はもう考えてあった。
本によると、ハンミョウの幼虫は穴のそばを通る生き物を食べるらしい。
哲也が見たものには、昆虫をとらえているものばかりで、カエルを引きずり込んだのを見たのはラッキーだったのかもしれない。カエルを食べるという記述をした本は見当たらなかった。
とにかく、小さな生き物なら食べるだろう。
次の日、哲也はいくつかの虫や小動物をつかまえた。
そしてカゴに入れた。
そして釣り糸を持っていく。
本によると、幼虫の背中にカギのようなものがついており、ひきずりだされないよう穴の壁にひっかけたりするらしいし、カエルの様子を見るに、なかなか強い力であることが予想されるので、木綿糸では心もとなかった。
まあ、生きた虫にくくりつけるのは木綿糸のほうがやりやすいだろうが、哲也はそんなことは気にしない。
とにかく引っ張りだす。そして飼育する。
これしか頭になかった。
準備が整い、哲也は目的地に向かった。
例の固い土の原っぱ。その中でも特に草むらとの境辺りに穴が多かったと記憶している。
とにかくそこを狙う。
着くや否や、哲也は虫を糸でしばった。
そして穴の近くに誘導する。
すると、穴から例の幼虫がヌッと顔を出した。
瞬間、そいつは虫にかみつき、そのまま穴にもぐろうとする。
とにかく動きが早い。
だが負けるわけにはいかない。
哲也は糸に力を入れ、上に引き上げようとした。
幼虫はもぐろうとするので、綱引きのようになった。
「つえぇ。」
思わず声を上げた。
だが、所詮は相手は虫である。
そのうち根を上げて出てきた。
「よしとれた!」
哲也はこのときプラスチックケースも準備していた。
幼虫は持ち帰るのが大変だろうから、先に飼育する環境を整えて、それに入れた帰ろうと考えていたのだ。
プラケースに10数センチの深さまで土を入れてある。
哲也はさらに家にあった大きな釘を使って、穴をいくつか作っておいた。
その穴に、とった幼虫をおしりから落とし込む。
こうやって、哲也は何匹かハンミョウの幼虫をつかまえるのに成功した。
そしてそのケースのまま持ち帰った。
なぜ幼虫を持ち帰ろうと思ったかと言うと、もちろん成長して羽化して成虫になってくれれば、あの美しいハンミョをいつでも見ることができるからだ。
成虫をつかまえて、何度か飼育したことはあるが、なかなか長生きしなかった。
もちろん飼い方を知らなかった哲也がつくった環境が合わなかったというのが理由だろう。
でもこれなら幼虫から成虫まで長く飼育できるだろう。
うまくいけば蛹も見れるかもしれない。
そういう思惑から、今回の採集が計画されたということだ。
そしてこの日から、幼虫のエサの確保が始まった。