哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑮タマムシはどこだ! その2

哲也の昆虫大好き!熱は冷めることなく加速し、いろんな虫を図鑑で見ては

「つかまえたいなぁ。」

とか

「見てみたいなぁ。」

と思う日々だった。

特にクワガタは大好きで、とにかく雑木林には足しげく通った。

父に見つけてもらったタマムシもお気に入りだったが、残念ながら死んでしまい

また実物を見たいとも思っていた。

クワガタ採集に行く林と、タマムシが飛んで行って消えた場所が同じなので

あわよくば、タマムシもクワガタも見つけられるのでは?と考えていた。

哲也はいつものように林道を歩き、道沿いのクヌギなんかを見て回っていた。

クワガタを探すときは、普通まずは木の幹を中心に見る。

いつも通っていれば、樹液が出る木と、その出る場所も把握しているので

真っ先にそこを見る。

そのあと、高い枝で休んでいるものがいないかチェックしたり

木の根元のまわりの落ち葉や土の中で眠ってるやつがいないか掘ってみたりする。

最後に木をけって落ちてこないか確かめる。

大体、こんな工程を一本一本繰り返しながら進んでいく。

哲也はある1本の木のチェックを終え、次に向かうために歩き出した。

そのとき、一瞬視界の一部に何かが映った気がした。

「ん?」

違和感を覚えた哲也はゆっくりとその方向を見る。

いつもチェックするクヌギの木の手前にある小さなクヌギの木。

その木は樹液は出ておらず、普段見向きもせずそのとなりの木に向かう。

しかし、その小さなクヌギの葉で輝くものが動いていたのだ。

「タマムシだ!」

哲也はゆっくりと近づいた。

手はギリギリ届くかどうかの高さだった。

まだ小さい哲也の手に届くような低い位置の葉にとまっていたのだ。

こんなことは初めてだ。

哲也は最初手づかみしようと思ったが、逃げられるのは怖い。

高さがギリギリなだけに、手元が狂えば逃げられるだろう。

空に舞い上がられたら、間違いなくもう捕まえることはできない。

哲也は網を握り直し、短めに持って構えた。

そその瞬間!タマムシが羽を開こうとしているのがわかった。

バシッ!

哲也は躊躇せず、勢いよく網を振った。

イメージはこうだ。タマムシがとまってる葉っぱをかすめ、虫を網に入れ、地面に網を下す。

思った通りの動きはできた。

タマムシが飛んで行った気配もない。

心臓をバクバクさせながら網の中を確認する。

「とれた!」

哲也は大声で叫んだ!

あの輝く美しい虫を、自らの手でつかまえたのだ。

網に手を入れて、そいつを手につかむ。

タマムシはなすすべなく、足や触覚をわしゃわしゃと動かす。

心音など聞こえるはずもないが

哲也の手にはなにかこう、命というか魂というか・・・。

小さな虫なのに、何か壮大な生きてる証を感じた。

今度はうまく飼って、少しでも長く生きてもらうつもりだ。

前回、すぐに死なせてしまったので色々調べたところ

エノキやケヤキの葉を食べると書いてあったので、哲也はさっそくそれを取りに行った。

いつもの雑木林にもエノキがあるのだが、ちょっと背が高くて枝を取るのが難しい。

近所の友人の家の庭に立派なエノキがあり、枝もとっていいと言われていたのでそこに向かった。

そして虫かごの中にヤクルトの容器を洗って、水をはり

それにエノキの枝をさすという方法をとった。

ヤクルトの容器は軽くて倒れやすいので、木くずに本体を埋めて倒れないように固定した。

タマムシはその葉をよく食べてくれた。

もともと短命らしく長生きはしなかったが、それでも1か月以上生きた。

家に帰るとタマムシがいるというのは、本当に楽しかった。

そして、飼い方も覚えて、満足いくシーズンとなった。

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