じいちゃんはがんこな昭和の親父を絵にしたような人だった。 大戦では兵隊に駆り出され、なんとか生き延びたらしい。 軍服を着た若いころの写真見たがかっこよかったのを覚えている。 もともとは他県にいたが、炭鉱で働くために福岡へ。 その後炭鉱が閉鎖される中、町役場で働くようになった。 自分が保育園に通うころ、じいちゃんは自転車で役場に向かっていた記憶がある。 酒とたばこが好きで、医者から体のためにやめろとよく言われていたようだ。 厳しく亭主関白なじいちゃんだったが、なぜか孫の哲也をすごくかわいがってくれた。 頼りになり、優しい大好きなじいちゃんだった。 そんなじいちゃんだったが、哲也が年長のころがんになったということで入院した。 すでに体中に転移し手の施しようがないらしかった。 手術もしたが延命しただけで完治しなかった。 じいちゃんの強い思いで、最後は自宅がいいと、退院して帰ってきた。 わけがわからなかった哲也は、帰ってきてうれしい!なんて思っていた。 帰ってきても、ほとんど寝たきりであったが、じいちゃんの好きな野球を一緒にテレビで見るのが楽しかった。 哲也は小学生になった。ランドセル姿を見てすごく喜んでくれた。 じいちゃんは秋にある予定の運動会を見に行く!と張り切っていた。 時々、お医者さんが往診に来るのだが・・・。 5月のある日、ふだん穏やかな顔のじいちゃんが険しい顔をして医者呼んでくれ!と怒鳴った。 父が電話をし、ばあちゃんはじいちゃんのそばにくっついていた。 哲也はわけがわからなかったが、じいちゃんが苦しいんだろうと思い、じいちゃんのそばにいた。 そのうち、カッと見開いていた目が半開きになり 「お医者はまだか~。お医者はまだか~。」 を繰り返した。 ばあちゃんが手を握って、 「もうすぐ来る!」 と声をかけ続けていた。 哲也はなんとなく怖くなり、何度も玄関まで行ったり、じいちゃんのところに戻ったりを繰り返した。 「こんにちは!」 ガラッと玄関の戸が開く音がした。 ばあちゃんが 「お医者さん来たよ!」 と叫んだ。 しかし、それに対してじいちゃんは何の反応もなかった。 お医者さんは急いで家に入り、じいちゃんのところにきた。 そして脈をとったり、目にライトを当てたりしたあとポツリと言った。 「ご臨終です・・・。」 ばあちゃんが声を上げて泣き出した。 父も涙ぐんでいた。 何もわからない哲也だけが不思議そうにじいちゃんの顔を見つめ続けた。 なんとなく悲しいという気持ちはあったが それはじいちゃんが死んだというよりは ばあちゃんが大声で泣きわめくという、初めて見た光景に悲しくなったように思う。 死ぬという言葉は知ってはいたが、今一つどういうものかわかってなかったのだ。 その証拠に、棺桶に入ったじいちゃんを いつ目を開けるんだろうと思いながら、何度も何度もふたを開けて確認した記憶がある。 一向に目を開けないじいちゃんを前に 「なんで起きてこんと?」 と聞いたりもした。 火葬場でのこと・・・。…
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