色が黄色くなり、からだがぶよぶよになり、屈伸運動を繰り返す。そしてエサを食べたりもぐったりしない。 そう、この状態は前蛹(ぜんよう)とよばれる状態である。 このころの哲也はそれを知らなかった。 カブトムシ幼虫は成熟すると、たてに長い楕円形の部屋をつくる。ふんをぬりつけたり、からだをこすりつけたりして、かなりなめらかで固い面でおおわれる。これをつくるのにかなりの体力を消耗する。 そして部屋を作り終えると、先述の状態になり、部屋の中で屈伸運動をしながらすごし、ある時期になるとからだを硬直させるようにピンと伸ばして脱皮。蛹へと変化する。 こういうった虫を飼っているとまれにあるのだが、部屋をつくらずに土の上で前蛹になることがある。 おそらく、部屋をつくる場所を探し回り、気にいったところが見つからず、からだのほうが先に変化しようとするため、しかたなく土の上でなるものと思われる。 こうなると、ほおっておくしかない。 しかし、哲也は心配したあげく、さわりまくったり、土をかぶせたりしてしまったのだ。 これはかなり体力を奪ったことだろう。 ある日、ようすを見ると、それは動かなくなっていた。 死んでしまったのだ。 もしかすると、蛹になる直前の動かなくなる時期だったのかもしれないが、その当時の哲也はそんなことは知らない。 今となっては死んだのか、動かない時期だったのかわからないが、結局その幼虫をダメにしてしまった。 この日以来、哲也は自分がすごいと思うのはやめにした。 それから哲也は多くの経験を積んだ。 いろんな情報から、カブトムシやクワガタのとれる場所をたくさんインプットし、おそらく30か所以上は知っていたと思う。 その日の気分に合わせて、好きなところにとりに行った。 冬場の幼虫採集も、何か所か場所を見つけた。 また、夜じゃないといないと思っていたカブトムシだが、昼間も結構樹液にきていた。 ただ、昼間の採集はスズメバチを避けながらの採集となり、恐怖との闘いであった。 まあ、夜は夜で暗闇やマムシにおびえながら山に入ってたんだが・・・。 哲也はカブトムシを採集したり、飼育したりすることがずっと好きであった。 まあいい歳した今もやってるんだが・・・。 子供のころよりは、飼育や採集のウデは多少マシになってると思うが、今もときどき思い出す。 あのころ、 カブトムシがほしい! カブトムシを育てたい! そう思いつつ、山に入ったり、いろんな飼育の仕方をためしたりした。 そのときの記憶は今も色あせることなく、心に刻まれている。