哲也はお小遣いを取り出した。 ブタの貯金箱に入っていたお金だ。 そこから数百円を取り出すと少し離れたところにある釣り具屋さんに向かった。 釣り具屋さんといっても、ガッツリとした釣り具専門店ではなく おばちゃんがやってる小さな駄菓子屋兼釣り具屋である。 哲也が買いたかったのは針と糸。 今父にもらって使っているものより少し太いものが欲しかったのだ。 ここで哲也は針と糸を買うと、走って家に戻った。 早く仕掛けを作りたかった。 父に結び方を習ったが、最初はなかなかうまくいかず苦戦した。 小学校低学年で、かつ不器用な哲也には糸を結ぶのは大変だった。 それでもがんばって覚えようとしたのは、誰にも頼らず釣りがしたいからだ。 そうして、なんとか仕掛けをつくることができた。 延べ竿にテグス、そしてゴム管にウキ、ヨリモドシでテグスとハリスをつないだ。 途中にかみつぶしおもりをつけて完成。 いたってシンプルなしかけだ。 休みの日、哲也はそれをもって、また多々良川にでかけた。 えさはミミズ。 実は前の日、雨が降っていたため、水は茶色ににごっていた。 そんなことはおかまいなく、哲也は釣り座につくとすぐにエサをつけてしかけを投げた。 本当に入れてすぐだった。 ウキが一気に深いところまで沈んでいった。 とっさのことにびっくりして、慌てて竿をギュッと握りなおした。 すると、ものすごい力で竿先が水の中に引き込まれようとするのがわかった。 「なんだ、なんだ!?」 哲也はとにかく慌てて、なかなか態勢が整わなかったが、グングンと引っ張られてやっと我に返り、なんとかグッと竿を立てることができた。 濁った水でウキが見えない。 何かがかかっているのは間違いないが、とにかく深いところを右に左にと動き回るので確認もできない。 何より、ヒキが強すぎて竿を立てるので精いっぱいであった。 「やばいやばい!」 哲也は手にしびれを感じ、そう叫んだ。 なんとかふんばって竿を立てつつ、川岸から離れるよう後ろに下がる。 だんだんそいつは岸に寄ってきた。 そして次の瞬間! バシャッ! 魚体が翻り、水面付近で暴れた。 「ナマズだ!」 濁っている水の中だが、はっきりと見えた。 大きなナマズが暴れているのだ。 太い糸にしておいてよかった・・・。 今までの糸なら切れてたかもしれない・・・。 そんなことを考えながら、哲也はとにかくナマズの動きに合わせて体の向きを変え、疲れるのを待った。 しばらくやりとりが続いたあと、ついにナマズは疲れて浮いてきた。 哲也は父がフナを釣り上げたときに聞いていたことがある。 「大きいのかかったのに、なんでそげん簡単に上げれると?」 すると父は 「とにかく、顔を水から出してしまえばよかったい。そしたらパクパクして動かんくなるけん。」 哲也はその言葉を思い出し、浮いてきたナマズの顔が水面から出るように竿を操作7した。 あのひげが生えて、なんでものみこめそうな大きな口がついに水面から出てきた。 哲也はその状態を維持しながらナマズを岸に寄せた。…









