哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ②マイマイカブリ その4

父は厳しい人間でした。

悪いことをしたり、帰宅時間を守らなかったりするとたたかれたり、追い出されたりしていた。

こわいし、怒られると嫌いと思うこともありましたが、実際のところは父が大好きだった。

細かいことは別の機会に書こうと思いますが、父は哲也の趣味である虫取りや釣りに対してかなり理解してくれていたように思う。

実は、虫好きでいろんな虫を集めてくる哲也のために、大きな虫かごを作ってくれたりしたのだ。

クワガタやカブトムシを飼うためのケースは持っていたが、他の昆虫を飼うときに、普通のケースでは飼いにくい。

こんな虫かごを2つも作ってくれたのだ。

余った木や、網戸を貼ったあとの網を利用し、あっという間につくってくれた。

この虫かごについては、今後もちょいちょい出てくることになる。

これのすごいところは、下に土やオガを、虫に合わせて入れることができることと、背が高いので草や木を入れることができ、まさに自然を再現できることだ。

説明が長くなったが、哲也はつかまえたマイマイカブリをこの中で飼うことにした。

下の部分には土を入れ、落ち葉や枝を拾ってちりばめた。木に登ることもわかったので、太めの枝も数本立てて入れておいた。

その中に、マイマイカブリを入れると、最初はせかせか動き回っていたが、そのうち落ち葉の陰でかくれるようにじっとしていた。

「気にいったのかもしれない。」

そう思った。

しかし、実際にはこれからが大変だ。えさを確保しないといけない。

カタツムリは、雨の日に自宅の畑に行けばとれる。でも、雨がふらないときはほとんど見つからない。

どうしようか悩んでいると・・・。

「雨の日にたくさんとっておいて、飼いよけばいいやん。」

父は当たり前のようにそう言ったのだ。

なるほど!

「ありがとう!」

哲也は雨が降るまでは、畑でミミズを掘ってきて与えた。

最初警戒していたマイマイカブリだったが、そのうち、ミミズを見つけてかじりついた。

例のあのするどいアゴを使って、ミミズにかみつき、暴れるミミズをものともせず食べていく。

よく見ると、クワガタやカブトムシのようなオレンジ色のブラシ状の舌があり、かみついたあとそれでなめてるように見えた。

なるほど、こうやって食べるのか・・・。

哲也は一心にその光景を見ていた。

雨の日、哲也は畑に行くと、くまなく調べてカタツムリを集めまくった。

大小20匹ほどとれただろうか。

哲也はそれらをプラスチックケースに入れて、畑から出たキャベツの残骸とか、いろんな葉っぱを入れて飼った。

それらを観察するのも楽しかったが、それはまたの機会に。

大きなカタツウムリを選んで、マイマイカブリのカゴに投入。

山中で見た、頭をからに突っ込む姿をまた見ることができた。

育てたカタツムリを、大きくなった順にエサとして与える。かわいそうではあったが、マイマイカブリがおいしそうに食べる姿がとてもかわいくなってきていた。

大きなカタツムリがないときは、ミミズを掘ってきて与える。他の昆虫も飼育している哲也にとって、忙しい日々であったが、本当に楽しかった。

しかし、ある日その楽しみは終わってしまう。

もう秋になろうかという時期・・・・。

朝、カゴを見るとひっくり返って、脚をだらしなく折り曲げたまま動かなくなったマイマイカブリがいた。

昨日まで元気だったのに、突然死んでしまったのだ。

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