哲也は、バッタのなかまがとても好きだった。
近所の草むらはかれらをつかまえる絶好のポイントになっていた。
トノサマバッタやクルマバッタ
オンブバッタにツチイナゴ
クサキリ、ツユムシ、エンマコウロギなど・・・。
クツワムシやキリギリスのような大型種がとれると歓喜したものだ。
しかし、なかでもとくに好きなのはショウリョウバッタだった。
あのどっしりとした重量感!
大きいのに、からだや顔は細身できれいな形をしている。
鮮やかな緑色のやつもきれいだが、枯草のような色をしたものもかっこいい。
ショウリョウバッタをつかまえると、その日は勝ち!感が強かった。
幼稚園くらいのころだったろうか。
いつもの原っぱで、網を片手にバッタを追い回していた。そのとき、足元からキチキチキチッと音がして、緑色の昆虫が飛びだした。
「キチキチバッタだ!」
哲也はそいつが飛んで行った方向に走っていき、網をかまえて狙いを定める。
バシュッ!
素早く網をふる。
中を確認すると・・・。
「いた!キチキチバッタだ!」
哲也は歓声をあげた。
素早くてつかまえにくいコイツがとれるとテンションが上がった。
キチキチバッタというのは、何かの本でそう書いてるのを見たのでそう呼んでいる。
ただ、哲也にとってはショウリョウバッタとうり二つだったので、なぜコイツはそんな名前なのだろうかと不思議だった。もちろん、飛んだ時にそういう音が鳴るからだろうと思った。しかも、ショウリョウバッタは飛ぶときに音がならない。
幼かった哲也は、彼らが別種であることを疑わなかった。
哲也はバッタをたくさんつかまえていたが、飼育するカゴがなかったので、とるだけとって帰りに逃がして帰っていた。
クワガタやカブトムシを入れているケースに入れるわけにはいかない。
何より草を入れられない。
なんとかならないものか・・・。
あるとき、哲也は父にバッタを飼いたいけど、どうやって飼えばいいかわからないと話してみた。
そうすると父は
「つくっちゃろう。」
と言った。びっくりした。
つくる?そんなことができるのか・・・。
哲也は半信半疑ながら、でもバッタを飼育できるかもしれないという期待でいっぱいになった。