哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑨哲也とカブトムシ その9

カブトムシについていろいろ教えてくれた近所のにいちゃん。

そのにいちゃんによると、友達にもっとすごいヤツがいるという。

今度その人を連れてくるらしい。

まだ小学生にもなってない哲也にとって、普通なら、その頼もしいお兄ちゃんたちは、すごい存在のはずだった。

実際、その近所のにいちゃんも最初すごい兄ちゃんだと思っていた。

だが、それなりにカブトムシについてわかってくると(あとで、わかってきたわけではなく、まだまだだったと思い知らされることになるのだが)、自分はこんなに小さいのに、これだけわかってるんだから、ボクのほうがすごい。などと思うようになっていた。

ある日、近所のにいちゃんが友達を連れてきた。

このとき季節は冬。

その人は哲也に会うなりこういった。

「カブトムシすきなんやろ?」

哲也は大きくうなずいた。

「じゃあ、今からカブトムシとりにいこう!」

哲也はあっけにとられた。

いや、今冬だよ。もうクヌギの葉はほとんど抜け落ちて、樹液もなく、ガやカナブンやスズメバチさえもいない。

ポカンとしている哲也に彼はこう言った。

「軍手とバケツとスコップ持ってきよ。」

なんかよくわからんかったが、とにかく哲也は言われた通り準備した。

不思議そうな顔をしている哲也に、特に説明をするでもなく

「さあ、行こうか。」

と哲也の手を引いて歩き出す。

哲也は何事かわからなかったが、とにかくついていった。

近所の兄ちゃんも一緒だし、こわいことはないだろう。

しばらく歩くと、いつもクワガタやカブトムシをとる林道の近くまできた。

「今の時期、いるわけないのに・・・。」

哲也は心の中でつぶやく。

しかし、彼はその林道を通らず脇道に曲がる。

そこは雑木林に続く道ではない。

田んぼのあぜ道を抜けた先に鶏小屋のある場所だ。

少し歩くと、例の鶏小屋の独特のにおいがしてきた。

鶏小屋に行くんだろうか?

だが、彼はその入口を通り過ぎさらに歩く。

そして鶏小屋の敷地のとなりにある小高い自分の背丈より少し高いくらいの小さな山の前に立った。

「よし。じゃあ掘るぞ。」

そこは鶏の糞や食べ残し、あるいは小屋周辺の掃除のときに集めた落ち葉などを積み上げた山だった。

少々におう。

未だ、何事かわからない哲也をしり目に、彼はその土を掘りだす。

そしてすぐに・・・。

「いたいた。」

そういうと彼はまるまるふとったカブトムシの幼虫を手に乗せて、哲也に見せた。

そういうことか!

ここはカブトムシの産卵場なのだ。

初めて野外でカブトムシの幼虫を掘りだす。

ごろごろと幼虫が出てくる。

「すごい!」

哲也は我を忘れてとりまくった。

しばらくして

「じゃあいる分だけ残して、あとは帰そうか。」

全部持ち帰るつもりだった哲也は驚いた顔をしてみせた。

「どうせたくさん飼いすぎると飼育大変だし、残しとけばまた来年そいつらが卵産んでくれるやろ?」

なるほど。そんなことまで考えているのか・・・。

哲也はちょっと前まで、少し年上のお兄ちゃんたちだと思っていたが、なんか途方もなく歳の差があるように思えた。二人は確かそのころ小学校の高学年だったと思うが、なんかすごい大人に見えた。

哲也は最後に二人に「ありがとう」と言って帰宅した。

とりあえず、10頭ほどの幼虫を持ち帰った。

そしてそれらを育てることにした。

この時点で哲也は上には上がいることをまじまじと感じていた。

5月ごろのことだっただろうか・・・。

さらに哲也の自信をくだく出来事が起こる。

飼育中の幼虫のうちの1頭が腐葉土の上に出ていた。

なんか黄色と言うか薄茶色というか、変な色をしている。

さらにそいつはからだがぶよぶよしていて、いつも見る幼虫のようなハリがない。

そして、土に潜ろうとせずその場で屈伸運動を繰り返している。

どういうことだ?

どうすればいいんだ?

何もわからない。

とにかくもぐらなければ、えさも食べれないし、蛹になる部屋もつくれない。

なんとかもぐらせなければ・・・。

そう考えた哲也はなんどもそいつをつかみ、土を掘りその中に埋めるというのを繰り返した。

しばらくして見ると、土がまわりに積み上げられ、くぼんだ部分にそいつはまた寝転んで屈伸運動をしている。

どうしていいかわからないので、結局そのまま放置した。

数日後、最悪の結末を迎えることになる。

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