Category: 哲也昆虫記~ファーブルになりたかった少年~

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ②マイマイカブリ その1

みなさんはマイマイカブリをご存じだろうか? マイマイとはカタツムリのこと。 カタツムリの中に頭をつっこんで食べてしまう獰猛な昆虫。 マイマイを頭にかぶるからマイマイカブリ。 保育園児のころから、山に入ってクワガタとりしてた哲也は クワガタ以外にもいろんな昆虫に興味を持ち、いろんな昆虫をつかまえたり、観察したりしてきた。 マイマイカブリは図鑑でしか見たことがなく、獰猛そうではあるが クワガタやカミキリムシに似ていて、一度はつかまえたいと思っていた。 小学生になったばかりのころだっただろうか? ついにそのマイマイカブリを見つけた。 雑木林を歩いていた時に、あの独特の細長いからだなのに妙にどっしりしていて おしりがとんがっている姿を目にしたのだ。 「マイマイカブリだ!」 哲也は急いでつかまえようとしたが、そのからだには似合わず、ものすごいスピードで走り回る。 結局、茂みの中に逃げ込まれてしまった。 これが哲也とマイマイカブリの最初の出会い。 チャンスを無にした哲也はガックリと肩を落とした。 これまで何度も山に入っていたのに、見つけたのは今回が初。 次にまたチャンスはくるのだろうか・・・。 哲也の脳裏には、カサカサと落ち葉の上を素早く移動して草むらの中に消えていくマイマイカブリがしっかりと残っていた。 あきらめきれず、近辺を探しましたが結局見つからず、その日は帰った。 ある夏の日、朝から雨だった。 「今日はさすがに虫取りはいけないか・・・。」 哲也は雨が落ちる様子を窓からうらめしそうに眺めながら、仕方なく宿題をやった。 ばあちゃんに昼ごはんだと呼ばれ、ふと見上げると 「雨がやんでる!」 哲也はいてもたってもいられなかった。 哲也は、ばあちゃんが用意してくれたごはんをめっちゃ急いで食べた。 そして食べ終わるや否や、すぐに準備をした。 「どこ行くんか?」 「山」 「またか」 こんな会話をしながら、哲也は夏というのに長袖に腕をとおすと 虫かごや網などを持って、家を飛び出した。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ①フンコロガシ? その4

移動してすぐに・・・。 哲也は感動で動けなくなった。 「うわぁ~。」 と声ともため息ともつかないような、口から思わず漏れ出るような声を出しながら目の前の光景にただただ見とれていた。 センチコガネの群れだ。 おそらくオオセンチコガネだと思われる。 黒を基調としたからだの表面は、赤とも紫とも青ともつかぬまばゆいほどの輝きでコーティングされている。 そんなセンチコガネが脚や触覚に糞をつけたまま、何匹も集まって無心に糞を食べていたのだ。 「ピカピカだ・・・。」 哲也はそれまでセンチコガネは何度も見たことがあった。 この種は獣の糞を探して飛び回っているらしく、クワガタ採集のため山に何度も入る哲也にとってはさほど珍しいものではなかったのだ。 ただ、目の前にたまたま飛んできた1匹を見つけた!なんてことが多く、きれいとは思っていたが、どうしても糞虫であることを知っていたので、別に気にも留めず、捕まえて持ち帰ることもない昆虫だった。 しかし、においも気にならないほど牛糞のそばで観察を続けている今の哲也にとって、対象が糞虫であることはどうでもいいことだった。 それよりも、普段なら汚い!と寄り付くことのない糞に、10匹ほどのセンチコガネが、虹色の輝きを放ちながら動き回る姿には、神々しささえ感じていた。 「すごい。こんなにきれいな虫だったんだ・・・。」 哲也はゆっくりと近づき、さらに観察した。 ただ、ここでは先ほどのような巣穴的なものは見つけられなかった。 しかし、糞を食べながら、中には交尾中のものもいて、彼らの生き様を見せつけられた気がした。 さらに歩き回り、マグソコガネも確認できた。 この時点で、かなり哲也の中では満足していたのだが・・・。 一つだけ、もやもやしていることがあった。 ファーブル昆虫記では、フンを転がして巣に運ぶことが書かれていた。 しかし、どこを見回しても転がしてるヤツは見当たらない。 この日はこれで帰りましたが、この日以降も何度か観察に行ってみた。 ほかにも多数の種類の虫を発見した。 図鑑には載ってなかったものもあり、結局名前がわからない虫もいくつかいた。 でも、糞にこれほどいろんな種の虫がいて、それぞれいろんな生活をしている。 そういうことがわかったことが、哲也は何よりうれしかった。 しかし、結局彼らがふんを転がしているところは一度も見れなかったのだ。 ファーブル昆虫記を読み、ファーブルに憧れ、フンコロガシに思いを馳せた哲也だったが、残念ながら調べていくと、日本の糞虫のほとんどが糞を転がさないということだ。 どおりで、発見できないはずだ・・・。 しかし、哲也の昆虫に対する熱がこれで冷めるはずもなく・・・。 また哲也は様々な昆虫を観察するために、野山に入っていくのだ。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ①フンコロガシ? その3

竹べらなんかでどうするのか・・・。 「ちょっとごめんね・・・。」 哲也はだんごの一つを穴から取り出した。 メスに申し訳ないとは思ったが、好奇心が勝った。 哲也は竹べらでそーっとそのだんごをうすく切った。 何もない。 もう少し切った。 するとなんとなく小さな空洞があるように感じた。 そこから慎重にその空洞のあたりの糞をうすく取り除いた。 すると・・・。 白くて楕円形のものが現れた! 間違いない!卵だ! 「やった!見つけた!」 哲也は卵を見つけた感動で思わず声を出した。 本当に糞の中に卵を産んでいるのだ。 もしかすると、全部糞のだんごを開けてみれば、すでに幼虫になっているものもあるかもしれない。 しかし、さすがにそこまでは・・・。 がんばってだんごをつくり、産卵し、その穴にとどまって番をしているメスに申し訳ない。 哲也は、竹べらにくっついた糞をだんごに戻して、卵を隠してから それをまた穴に戻した。 この愛情たっぷりの糞玉の中で、卵は幼虫になり、幼虫は蛹になり、そして羽化して また新しい命を生み出すのだろう。 そう考えると、哲也はなにか言葉では言い表せない感情に包まれた。 こうして命がつながっていくのだと感じた。 感動のダイコクコガネとの出会い。 オスもメスも見ることができ、さらに卵も見つけた。 こんなに嬉しいことはない。 しかし、欲深い哲也はこれで満足はしていなかった。 ほかにも糞虫のなかまはいるはずだし、そもそもふんころがしてない! というわけで、哲也はそこから数メートル離れた別の糞のところに移動することにした。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ①フンコロガシ? その2

哲也は草原の中に足を踏み入れた。 破れた鉄条網のあたりは普段牛もこないので背の高い草が生えているが 中央に行くほど草はまばらになり、背も低くなっている。 当然だが、牛が食べているからだろう。 少し乾いた土の上には周りの乾燥した土よりも湿っていて、色の濃い糞がところどころ落ちている。 これまで、哲也はそういうものがあることを知っていたが、まじまじとそれらの糞を見ることはなかった。 そのとき、哲也の眼には何か黒っぽい動くものが見えていた。 「いた!」 哲也は思わず叫んだ。 そして、再度牛や人がいないか周りをきょろきょろ確認した。 「よし!大丈夫だ。」 もし牛がいて、突進でもされれば大参事だろう。 哲也は慎重に確認したあと、糞のそばに近づいた。 「おおっ。」 感動でそれ以上言葉が出なかった。 初めて見るダイコクコガネだった。 「すごい!カブトムシみたいでかっこいい!」 黒くテカテカと光沢を放ってはいるが ところどころに糞をべったりとつけている。 哲也は例の手袋をはめ、その虫をそっとつかんだ。 「力強い!」 手から逃れようと脚をバタバタさせるそいつは思いのほか強かった。 本当に糞を食べている。 こんな感動あるか? さらに見回した。メスはいないか知りたかった。 ふと糞のそばに目をやるとなんか穴のようなものが見えた。 「なんだ?自然にできてる穴か?」 哲也は穴の上にのっている土や糞を例の手袋でのけてみた。 「!!!」 声が出ない! すごすぎる! 穴は思ったより大きく、その中に丸い玉がいくつか見える。 ただしその玉は完全な球体ではなく、少し楕円のような縦長い感じだった。 もしかして? 卵産む場所じゃないのか? 哲也はかなり興奮していた。 糞の臭さなどもうどうでもよかった。 そのとき、玉の陰になにか動くものが・・・。 「メスだ!」 ダイコクコガネはオスはカブトムシを彷彿とさせる立派なツノがあるが メスはつのがない。 このとき確信した。間違いなくここは産卵場だ。 それにしてもよくまあこんなきれいに丸めたものだ。 がんばって産卵しているメスには申し訳ないが、どうしても確認したい・・・。 哲也は竹べらを取り出した。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ①フンコロガシ? その1

これから始まるお話は私の子供時代の経験をもとに、記憶があいまいなところもあるので脚色はしていますが、基本的には実際にあったことを文章にしてみました。今回のお話の題名にクエッションマークがついてますが、読み進めてもらえば、なぜつけたかわかるようになっています。ぜひ読んでみてください。 小学生の哲也は本が好きで、いろんな本を読んでいた。 図書室であるとき「ファーブル昆虫記」に出会い、 あまりの面白さに次々に借りて読んだ。 その中でフンコロガシの話があり、かなり興味がわいた。 昆虫図鑑を穴が開くほど見まくっていた哲也は糞虫についても知ってはいた。 日本にすむものではセンチコガネやダイコクコガネ、マグソコガネにエンマコガネなどがいるということも知っていた。 この中でもセンチコガネについては、時々山中で見かけたことがあり、糞に集まる虫なのにやたら輝いててきれいだと思っていた。 ほかの虫については見たことはなかった。 ただ、これらがすんでいるであろう場所については心当たりがあった。 家から2kmほど離れたところに牛小屋がある。 その小屋のまわりは鉄条網で囲まれた草原になっており、ときどき牛はそこで放し飼いされていた。 その場所のすみっこに、一部網が破れているところがあり、そこにはほとんど牛は来ない。 その破れたところから草原内に入ってすぐのところにクヌギが数本あり、ノコギリクワガタがよくとれるスポットだった。というわけで、この場所自体は何度も来たことがあった。 哲也はファーブル昆虫記を読んだときに、ここを思い浮かべていた。 クワガタがとれるから来ていたが、草原のあちこちに牛糞が落ちていて、かなりにおいもするので、本当なら行きたくない場所だった。 しかし、フンコロガシの話を読んで、哲也は無性に糞虫を見たくなったのだ。 哲也は休日に備えて準備を整えた。 ばあちゃんからゴム手袋をもらった。 子供のころ、山から竹をとってきて、よくみんなで竹とんぼなんかをつくっていたのだが、今回は竹べらをつくってみた。 装備を整え、休みの日の午前中に哲也は動き出した。 目指す先はもちろん牛がいる草原だ。 道中、哲也は糞虫のことばかり考えていた。 見つかるだろうか。そう思うと不安でたまらなかった。 例の鉄条網の破れた敷地のすみに到着した。 期待と不安が入り混じった表情を浮かべ、鉄条網の外から草原を見つめた。 数十メートル先に糞が点々と落ちているのが見えた。 牛や人の姿は見えない。 「絶好のチャンスだ!」 哲也は意を決して、普段なら真っ先にチェックするクヌギの木には目もくれず、牧場内に入っていったのだ。