哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ②マイマイカブリ その3

哲也はまず、これまでの失敗を振り返った。

そもそもマイマイカブリ狙いじゃないときに、いきなり出てきたので準備ができていなかった。

かと言って、マイマイカブリ狙いで行くほど、よく遭遇する虫ではない。

やはり、別の虫を探すついでに狙うのが現実的だ。

網を使えば、素早いのにも対処できる。

しかし、問題はにおいを噴射されること。

これについては軍手を使うのが一番ではないかと思う。

においそのものをなんとかすることはできない。

くさいのを我慢するしかない。

ただ、直接手に噴射されるとしばらくにおいがとれない。

なので、素手で触るのをさけるべきだ。

そして軍手を使えばあのするどい大あごから指を守ることができる。

カミキリムシにも負けないほどの立派なあごを持っているので、かまれたらかなり痛いだろう。

というわけで、マイマイカブリ捕獲に成功するまでは

虫取りの際は常に網と軍手を持ち歩くことにした。

ある夜、哲也はまた山にでかけた。

狙いはカブトムシ。

懐中電灯を持って、樹液が出るクヌギの木を見に行く。

昼にノコギリクワガタなんかを目にする場所は、夜に行くとカブトムシがいることが多い。

このとき、哲也はカブトムシのことで頭がいっぱいだった。

夜はムカデに気を付ければ、スズメバチもほぼいないし、採集はやりやすい。

ただ、暗いしマムシ等がいても気づかない場合もあるのでかなり慎重に進む。

なるべく山奥には入らず、林道からすぐにチェックできる場所に行く。

目的の木に到着し、ワクワクしながら懐中電灯で照らす。

「カブトムシだ!」

目的の獲物の姿に歓喜しつつ、虫かごにおさめていく。

数本の木から10頭ほどとっただろうか。

なかなかの成果に満足した哲也は

「今日は無理せず、あと1本見たら帰ろう。」

哲也は林道沿いの木だけを見て帰ることにした。

成果が上がらなければ、少し林の中に入ろうと思っていたが

小学生が一人で真っ暗な山にいるのだ。

正直言って怖いし、そんなに長くいたいわけではない。

最後の一本に到着し、餌場を照らす。

「ん?」

カブトムシとは思えない真っ黒なものが目に入った。

フォルムがクワガタでもない。

まさか!

「マイマイカブリだ!」

まさか夜の樹液にコイツが来ているとは思わず、少し驚いた。

しかし、哲也はチャンス!と思った。

どうやら、樹液に集まる虫でもねらってやってきたのだろう。

懐中電灯の光をいったんその場所からそらし、軍手をはめた。

父から借りたそれは、少し哲也の手には大きかったが、今はそんなことはどうでもいい。

再びその場所を照らし、マイマイカブリの位置をしっかりと把握してすぐに手を伸ばした。

手ごたえあり!

「とれた!」

哲也は間違いなくマイマイカブリをつかんでいた。

あたりに、あの例のいやなにおいが漂う。

しかし、哲也はそれをぐっとこらえ、虫かごにマイマイカブリをほうりこんだ。

「やった!つかまえた!」

3度目の正直!というやつか。ついに哲也はその虫を手に入れることができたのだ。

なんのためにつかまえるのか・・・・。

哲也には考えがあった。

そう、えさを食べるところを観察するためである。

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