月日は流れ、夏が来た。
じいちゃんの件があって、哲也はしばらくその松の木は見ていなかった。
だいぶ気持ちも平常に戻り、家族もなんとかいつもの家族に戻りつつあった。
そんなある日、哲也はふとあの松の木が気になり、見に行った。
「何かいる。」
大きめの昆虫が見える。
色が木の色と似ているので、またウバタマコメツキかと思った。
しかし、なんか地味な色なのに輝いて見える。
「あっ!」
哲也は大きな声を上げた。
「ウバタマムシだ!」
哲也は慌ててそいつをつかんだ。
このとき、ウバタマムシを見るのも触るのも人生初だった。
「やった!すげー!」
哲也の興奮はなかなかおさまらなかった。
普通のタマムシはむしろ何度か見たことがあった。
つかまえたこともある。
ウバタマムシは図鑑で見て、一度はつかまえたいと思っていたのだ。
哲也はうれしくて、すぐにそいつを虫かごに入れた。
飼い方がよくわからない。
ただ、こいつは松の木に来ていたし、実際図鑑にも松の木で見られると書いてある。
松の葉や幹をかじるのでは?
そう思って哲也は松の木の枝を少しもらおうと考えた。
少し高いところの枝と葉をとろうと、根元から30cmほどの高さの曲がった幹に足をかけると
メキメキメキッ!とすごい音がした。
折れる!そう思った。
哲也は枝をとるのをあきらめた。
こわいので、父にそのことを話した。
父と一緒に松の木を見に行った。
根元から50cmほどの高さの皮が少し剥げているようだ。
父はその皮をむいた。
すると・・・
なんとも情けない感じの幹が露出した。
穴だらけで、虫がくったあとの木くずにまみれ、白アリやマツノキクイムシ、クチキムシその他いろんな虫が樹皮の下にひそんでいた。
父はゆっくりと木を押した。
「こりゃ倒れるぞ。」
見た目以上に中が朽ちてボロボロらしい。
このままでは危険と判断した父はこの木を処分することを決めた。
じいちゃんの大事な木だったが、危険なのでしかたない・・・。
まず父は朽ちてる部分より上の方、根元から1mくらいのところをノコギリでカットした。
上の部分はドサリと地面に落ちてきた。
その光景を見て、哲也は悲しかった。
上の部分はこれから燃やすそうだ。
残りの部分はもろいし危ないので、少しずつ切っていくらしい。
もろいとはいえ、切るのは大変なので、この日は上の部分を燃やすので終わることにした。
このとき、枝や葉をいくつかもらった。
ウバタマムシを飼うためだ。