Category: 哲也昆虫記~ファーブルになりたかった少年~

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑮タマムシはどこだ! その3

そのあとも、ときどきタマムシを見たり、捕まえたりすることはできた。 しかし、何かが満たされない・・・。 図鑑では美しい成虫の姿だけでなく、幼虫やさなぎの姿も載っている。 もちろん、そういうのを見たいというのもあったが、どちらかといえばなんかその生態がよくわからないことが不満な気がした。 例えば、大好きなカブトムシは、夏に樹液に集まり、オスとメスが出会い、交尾をすませたあと、メスは腐葉土などに産卵をする。そこで育った幼虫は冬の間に成長し、初夏にさなぎとなって、準備が整ったら満を持して地上に出てくる。そうしたはっきりしたサイクルがある程度わかる。 実際、飼育して産卵させ、翌年に成虫を拝むこともできた。 しかし、タマムシは図鑑等でいろいろ書いてあるので、それである程度のことはわかったが、なんとなくぼんやりしていた。 その生活をもっと垣間見たい。それがおそらくもやもやの原因だったと思う。 基本哲也は小学生の低学年までは、春~秋までしか昆虫採集をしていなかったのだが、高学年になってからは、カブトムシやクワガタの幼虫を探したり、越冬中の昆虫を探したりし始めた。 冬のある日、どうしても昆虫採集したい!とうずうずして、昆虫採集にでかけることにした。 手には父にもらった、ちょっと古めのナタがある。 クワガタの幼虫を取るのに、枯れた木を割ることを話したら 「お前専用のナタにしてよかばい。」 と言われ渡された。 目的地は、夏のうちにチェックしてたクヌギの倒木。 まだ堅いところも多かったが、哲也の力でも割れるような場所もある。 哲也はそこを慎重に割ってみた。すると・・・。 なんと!タマムシの幼虫を発見した! 「やった!」 さらに割ると、少し空間が出てきて、そこにはなんと成虫が! 「すごい!羽化して休眠してる!」 哲也はすごく興奮していた。図鑑のような光景が目の前にあった。 この日、さなぎは見れなかったが、さなぎも後日見ることができた。 すべてわかったわけではないが、哲也はタマムシの生態がかなりわかった気がして、そしてこれまで以上に身近に感じてますます好きになった。 次の年の夏のこと・・・。 クワガタ採集には少し早いか?と思われる6月初旬。 とはいえ、数は少ないが一応5月の終わりごろにもクワガタをとったことがあったので、本格的な夏を待ちきれないい哲也はクワガタ採集にでかけた。 目的の林道に入る前に、大きなクヌギの木があるのだが、ほとんど樹液が見当たらず、あまりチェックしない。 普段なら素通りするのだが、哲也はその木の近くまで来た時に、なんとなく違和感を覚えた。 「なんか木から飛び出てる?」 そう思い、哲也は急いで木に近づいた。すると・・・。 「えっ?タマムシ?」 なんと!木の幹に小さな穴が開いてて、そこから顔を出しているタマムシがいたのだ! まさに、木の中で羽化して時期を待ち、これから活動せんとするタマムシの脱出シーンに出くわしたのだ。 「すげー」 哲也はその様子に見入っていた。 結構時間がかかる。 途中で、手伝いたい衝動に駆られるが我慢。 時間は見てなかったが、かなり経ち、ついにそのほぼ全身が出てきた。 そんな場面を目の当たりにし、ものすごい興奮と嬉しさに満ち溢れた。 さらにその木を見回すと、ほかにもいくつか穴があり、何もいない穴、奥にタマムシの顔が見えてる穴、脱出を始めてる穴・・・。 結構、たくさんの穴があった。そこでまた感動した。 飛び回って、とるのに結構苦労するタマムシ。 それがたくさん、しかも無防備で簡単に捕まえれる状況。 低学年のころの哲也なら、喜んでそれらを根こそぎつかまえて持ち帰っただろう。 しかし、このとき哲也はただの1匹も持ち帰らなかった。 脱出の無防備なところを狙うのはフェアーじゃない。 こいつらと縁があるなら、この夏またこのあたりで飛び回っているところに出くわし、つかまえることができるだろう。 そのときまた勝負だ! そんなことを勝手に思いつつ、哲也はその木をあとにした。…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑮タマムシはどこだ! その2

哲也の昆虫大好き!熱は冷めることなく加速し、いろんな虫を図鑑で見ては 「つかまえたいなぁ。」 とか 「見てみたいなぁ。」 と思う日々だった。 特にクワガタは大好きで、とにかく雑木林には足しげく通った。 父に見つけてもらったタマムシもお気に入りだったが、残念ながら死んでしまい また実物を見たいとも思っていた。 クワガタ採集に行く林と、タマムシが飛んで行って消えた場所が同じなので あわよくば、タマムシもクワガタも見つけられるのでは?と考えていた。 哲也はいつものように林道を歩き、道沿いのクヌギなんかを見て回っていた。 クワガタを探すときは、普通まずは木の幹を中心に見る。 いつも通っていれば、樹液が出る木と、その出る場所も把握しているので 真っ先にそこを見る。 そのあと、高い枝で休んでいるものがいないかチェックしたり 木の根元のまわりの落ち葉や土の中で眠ってるやつがいないか掘ってみたりする。 最後に木をけって落ちてこないか確かめる。 大体、こんな工程を一本一本繰り返しながら進んでいく。 哲也はある1本の木のチェックを終え、次に向かうために歩き出した。 そのとき、一瞬視界の一部に何かが映った気がした。 「ん?」 違和感を覚えた哲也はゆっくりとその方向を見る。 いつもチェックするクヌギの木の手前にある小さなクヌギの木。 その木は樹液は出ておらず、普段見向きもせずそのとなりの木に向かう。 しかし、その小さなクヌギの葉で輝くものが動いていたのだ。 「タマムシだ!」 哲也はゆっくりと近づいた。 手はギリギリ届くかどうかの高さだった。 まだ小さい哲也の手に届くような低い位置の葉にとまっていたのだ。 こんなことは初めてだ。 哲也は最初手づかみしようと思ったが、逃げられるのは怖い。 高さがギリギリなだけに、手元が狂えば逃げられるだろう。 空に舞い上がられたら、間違いなくもう捕まえることはできない。 哲也は網を握り直し、短めに持って構えた。 そその瞬間!タマムシが羽を開こうとしているのがわかった。 バシッ! 哲也は躊躇せず、勢いよく網を振った。 イメージはこうだ。タマムシがとまってる葉っぱをかすめ、虫を網に入れ、地面に網を下す。 思った通りの動きはできた。 タマムシが飛んで行った気配もない。 心臓をバクバクさせながら網の中を確認する。 「とれた!」 哲也は大声で叫んだ! あの輝く美しい虫を、自らの手でつかまえたのだ。 網に手を入れて、そいつを手につかむ。 タマムシはなすすべなく、足や触覚をわしゃわしゃと動かす。 心音など聞こえるはずもないが 哲也の手にはなにかこう、命というか魂というか・・・。 小さな虫なのに、何か壮大な生きてる証を感じた。 今度はうまく飼って、少しでも長く生きてもらうつもりだ。…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑭タマムシはどこだ! その1

タマムシ・・・。 美しく輝くその虫・・・。 虫好きなら誰もが一度は手にしたいのではないだろうか? 図鑑を見て、タマムシを捕まえたいといつも思っていた少年がいた。 小さなころから虫取りばかりしていた哲也だが、なかなかその輝く姿にはお目にかかれなかった。 まだ保育園に通うころ、今も鮮明に覚えているのが飛んでいるタマムシの姿だ。 クワガタやカブトムシ、カミキリムシなどを狙い、よく近くの雑木林に通っていた。 保育園児ではあったが、山に入るのは怖くなかった。 もちろん、深いところはもう少し大きくなってから入り始めたが 雑木林のある林道沿いとか、道から少しだけ入ったところは、小さなころから虫取りの場だった。 ある日、いつものようにその雑木林のある林道を歩いていた時のことだ。 何かが飛んでると思い、見上げると緑色にキラキラ光る昆虫であった。 哲也は瞬時にそれが探し求めているタマムシとわかった。 「タマムシだ!」 叫びながら哲也は網をかまえ、そのタマムシを追った。 しかし、小さな哲也の届く範囲に降りてこない。 走って追いかけるが、距離も縮まらない。 そうこうしているうちにタマムシは林の中へと消えていった。 ほかにいないか?ときょろきょろしたが、そううまく見つかるはずもなく、 獲物を逃したショックで、がっくりして 予定のクワガタ採集もせず帰った。 そのことを父に話したら、 「そうか・・。」 と一言。それ以上何も言わなかった。 父はタマムシなど興味もないし、しかたないとは思ったが やはりその反応はとてもさびしかった。 哲也の父はそのころはトラックの運転手として日本全国あちこち走り回っていた。 長距離運転手なので、数日帰ってこないとかが常だった。 そのため、父が帰ってきたときはうれしかったのを覚えている。 ある夏の日の夜。 珍しく父が家にいる日だった。 みんなで晩御飯を食べたあと、父は酒を買いに行くと言ってでかけた。 まあ、いつものことなのであまり気にはしていなかった。 しばらくすると父が帰ってきた。 「ほら。」 父は哲也に向かって手を差し出した。 その手には輝くものが・・・。 「えっ?タマムシ?」 「前、ほしいって言いよったろうが。」 「うん!ありがとう。」 なんでも、自動販売機によく虫が飛んできてて、ときどきタマムシを見ていたらしい。 いつもは見てもそのまま帰ってくるのだが、哲也の話を聞いてからは ちょくちょくいないかチェックしていたらしい。 哲也は本当にうれしかった。 もちろん、あこがれのタマムシを手にしたこともうれしかったが 無関心と思っていた父が、そんなことを覚えてて、探してくれていたことが本当にうれしかった。 保育園の時手に入れたそのタマムシが生涯初のタマムシであった。 虫かごに入れて観察したりしたが 結局うまく飼うことができず、1週間ももたなかったと記憶しているが それでも、毎日楽しかった。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑬カマキリの累代飼育 その4

冬の間も哲也は時々気になってカゴの中をのぞいた。 まあ、何度見てもなんの変化もなかったが・・・。 そのうち春が来て、少しずつ暖かくなってきた。 冬にはよく気にしてのぞいていたカゴだが むしろ暖かくなってからのほうが気にしなくなっていた。 ある日ふと思い出して、カゴの中をのぞいた。 しかし、なにも変化はなかった。 その日から気にするようになった。 家に帰ってきたら、とりあえずのぞくようにした。 何日か続けたころのことだ。 遠くからカゴを見ると、なんか網にたくさんの影が見えた。 「もしかして」 哲也は慌てて近寄り、カゴを見るとたいへんなことになっていた。 ものすごく小さなカマキリがたくさん! 数え切れなかったが何十匹もいた。 哲也は本の写真で見た「カマキリの赤ちゃんがかたまりのようになって外に出てくるようす」を見たかった。 しかし、それはかなわなかった。 もうすでに完全に孵化した幼虫が散り散りに、カゴの中を埋め尽くしていたのだ。 「こんなにたくさん育てられるのかなぁ・・・。」 心配したものの、やるしかないと思いエサやりの日々が始まった。 しかしこの時期、手軽につかまえられるバッタなどはほとんど見られない。 しかもカマキリも小さいので、小さなものをとらなければならなかった。 哲也は、庭や畑、近所の草原などから、小さい虫を見つけてはつかまえ、カゴに放り込んだ。 時々、それらを食べてる様子が見られ、安心した。 しかし、日が経つとあきらかに大きさに差がでてきはじめていた。 そしてなんとなく数も減ってきている気がした。 あるとき、帰宅して中を見ると・・・・。 「共食いしてる!」 ひとまわり大きくなったものが小さいヤツを食べていた。 減ってきた原因がわかった。 エサが足りないのか? そう思い、一生懸命虫集めをした。 そんな努力の甲斐なく、数は減り続けた。 あるときは脱皮を始めたカマキリを見つけたが、脱皮してすぐのところをほかのカマキリに襲われ、そのまま食べられた。 やはり脱皮直後はからだが柔らかくて弱くて、格好の餌食になるらしい。 そのうち、大きさが4~5cmに到達するものがでてきた。 このころには10匹足らずにまで減っていた。 バッタも少しずつとれるようになり、それらを満足そうに食べる姿を見るとうれしかった。 この大きさになっても共食いは続き、結局秋ごろに成虫になったものは4匹だった。 その中の1匹はあきらかに大きく、他の3匹は少し小さめだった。 そう、その大きなものがメスだったのである。 メスがじっとしているところへ、1匹のオスが近づく。 交尾するのか?と思ったら、他のオスとけんかを始めた。 「すごい!取り合いだ!」 ガキッ!と音がするほどの激しい戦い。 そんな中、ひょうひょうと残った1匹がメスに近づき、そのまま交尾を始めた。 「うまく出し抜きやがった・・・。」 しかし、これはチャンスである。この交尾がうまくいけば、さらに第2世代も産ませられるかもしれない。 それには今戦ってるオスたちが邪魔しないかが心配だった。 そこで哲也は決断した。…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑬カマキリの累代飼育 その3

すさまじいカマキリの交尾・・・・。 まさに命がけの行為。 そんなおそろしくも神秘的な場面を見た哲也は カゴに近づくたびに、その光景を思い出していた。 つい先日まで元気にオスが生きていたカゴ。 今はメスしかいない。 哲也が見ている間には、交尾は終わらなかった。 結構時間がかかるものらしい。 いつのまにかメスは自由に行動をはじめていたが、あのオスは首もカマもない、そしてさらに腹などの一部も食われた状態で地面に横たわっていた。 メスはそんなオスのことなど意に介さず、何事もなかったかのように、カゴの中の王者として存在感を高めていた。 ショックはあったものの、哲也はこれで終わりではないとわかっていた。 哲也の一番の目的は産卵。 その光景を見、ときどき野外で見たことのあるカマキリの卵が入ったあのあわを手に入れること。 これが達成できるまで終わりではない。 草原にエサをとりに行くが、バッタが少なくなってきた。 哲也はバッタ狙いからコオロギ狙いに変えて、採集をした。 コオロギは草の根の周りをチョロリョロするので取りにくいが、ちょっとしたくぼみや石の下などを巣のように使ってることが多く、そこを狙えばつかまえることができた。 鳴くことも、発見を容易にした。草も枯れ始め、地面を見やすくなっていたし。 そして、コオロギなどをつかまえてカゴに入れると、カマキリはそれらを食べていた。 もう10月になったころだったと思うが、産卵はいつだろう。 産みやすいように、棒をいくつか立てているが、気にいらないのだろうか? 次第に焦りを感じていた。 やはり飼育下で産卵させるのは難しいのか? そう悩む日々だった。 そんなある日、学校から帰り、エサがいるかどうか確認しようとカゴの中を見た瞬間だった。 まさか! カマキリは棒にさかさまにしがみついていた。 そしておしりからあのあわのようなものを出していた。 「産んでる!」 叫びたいのをこらえ、心の中で大声で叫ぶ。 哲也はそのまま観察を続けた。 すでに半分ほど終わってたんじゃないだろうか? その後もあわを出して、ときどきとまっておしりを動かしている。 そしてしばらくするとときどき野外で見かける、あの形ができあがった。 ついにカマキリが産卵したのだ! カマキリはかなり体力を消耗したのか、産み終わってからもそのまま棒にしがみついていた。 大丈夫か?と心配になったが、夜にはまた動いていたので安心して眠った。 次の日、カゴを見ると、カマキリはまだしっかりとカマを開いてポーズをとっていた。 まだコオロギを狙う元気があるのか? そう思うとほっとした。 しかし、気になるのはコオロギは減っていないような気がしたことだ。 その次の日も、カマキリは生きてはいるが激しく動き回ることはない。 そしてコオロギは減ってる感じがしない。 その次の日・・・・。 学校から帰ると、地面に横たわっているカマキリを見た。 ついに死んでしまったようだ。 いろんな場面が思い起こされた。 なんか悲しかった。 どうしようもないさびしさがこみ上げる。 しかし、もう彼女はいない。…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑬カマキリの累代飼育 その2

あこがれのカマキリ。 その中でも大好きなオオカマキリのオスとメスを同じ日に手に入れるという幸運に見舞われた哲也は、彼らの一挙手一投足に注目した。 広い虫かごがせまく感じるほど、カマキリの存在感はすごかった。 特にメスはやはり大きい。 オスのカマキリがバッタに狙いを定めている。 カマをしっかりとかまえたまま、ゆっくりとからだをゆらゆらさせつつ獲物に近づく。 そのとき、バッタがピョンとはねた。 その瞬間!カマキリのかまはそのバッタをしっかりと空中でとらえた。 バッタは足をバタつかせているが、かまががっしりとからだをとらえ、動くことができない。 カマキリのオスは満足げに、口の横にある触覚を動かし、えものにかじりつき始めた。 足をピンピンさせていたバッタだったが、その動きは次第に鈍くなり、やがて動かなくなった。 頭や胴の一部が失われたのだ。 かわいそうではあったが、やはりこの強さに感服してしまう。 「すげー」 哲也は周りに声がもれるかもれないかくらいの小さな声でうなった。 そのうち、バッタはばらばらになり、ほとんど全身がなくなり、羽や足の一部が無残にも地面に散らばっていった。 カマキリのオスは、自慢のかまを手入れするように、自分の口でなめている。 メスのほうにも動きがあった。 メスも同様にバッタをとらえて食べ始めた。 このことは哲也を大いに安心させた。 飼育環境が良いということを表しているのだと思ったからだ。 次の日、学校から帰ったときのことである。 哲也はカバンを置くとすぐに、カマキリの家の前に張り付いた。 するとなんと! 交尾しているではないか! メスは哲也が用意していた棒につかまり、上を向いてじっとしている。 オスはそのメスの背中にしがみついている状態だ。 「やった!交尾成功だ!」 哲也は息をのんで、観察を続けた。 しばらく、そのまま何もなかった。 哲也は本を読んで、交尾後、オスがメスに食べられるということを知っていた。 この交尾が終わると、このオスももう終わりなのかもしれない・・・。 そんなことを考えていた。 卵を産んでほしいが、オスには死んでほしくない。 そんな思いがあった。 交尾ができるだけ長く続けばいいと思っていた。 交尾の最中、離れたところで葉をかじっていたバッタがピョンとはねて、彼らのそばにとまった。 そのとたん、オスは目をきょろきょろさせはじめた。 バッタがかなり気になるようだった。その直後、哲也は忘れられない光景を見ることになる。 メスはからだをよじって、オスのかまを自分のかまではさみこみ、口のほうに引き寄せた。 そしてなんとかまのつけねをかじりはじめた。 「なんだ?急に・・・。」 そしてものの数十秒で、オスのかまは無残に地面に落ち、オスは片腕になってしまった。 不思議なのはその間、オスは交尾をやめず、されるがままだったことだ。 そして片腕になったオスに対し、メスはさらなる行動に出た。 今度は器用に体をひねり、オスの頭をかまではさんで、自分の口にひきよせた。 そしてそのままかじりはじめた。 「えっ?」 思わず大きな声を出してしまいそうだった。 オスはそれでも交尾の体勢は崩さず、抵抗もしない。…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑬カマキリの累代飼育 その1

カマキリ。 強くてかっこよくて、まさに草原の王者。 男の子なら憧れる者も多い虫ではないだろうか? 哲也ももちろん、カマキリが大好きでした。 カマを広げて威嚇する姿・・・。 これを見るために草原に入る。 毎回は見つからない。 バッタをつかまえるときに、たまに見つける。 カマキリをつかまえたときは、いつもより嬉しくなって帰る。 そして、飼育するときは、バッタも一緒に持ち帰る。 かわいそうだが、エサが必要だ。 そして飼い始めると、毎日エサをとりに出かける。 ときにはバッタのなかま、ときにはチョウ、セミなんかを入れることもあった。 エサを切らさないようにするのは大変だが、毎日カマキリの勇姿を見れるのは楽しい。 カマキリ(チョウセンカマキリ)、コカマキリ、ハラビロカマキリ、ヒメカマキリ、ウスバカマキリなど・・・。 どれも魅力的で好きだったが、なかでもとりわけオオカマキリが大好きだった。 (哲也は大きい種を好む傾向にあるらしかった。セミはクマゼミ、トンボはオニヤンマ、クワガタはオオクワガタやミヤマクワガタ、バッタはショウリョウバッタという感じだ。) ただ残念なことに、どんなに強いカマキリも、秋の終わりまでには死んでしまう。 冬の間は見ることができないのでさびしいものである。 そんなときは、哲也はとにかく図鑑や本を読み漁った。 そして次のシーズンに思いを馳せる。 そして夏になると、またフィールドに向かうのだ。 夏の終わりのある日、哲也はオオカマキリを見つけることができた。 しかも、大きいやつと、ひとまわり小さいやつの2匹だ。 彼らは一緒にいたわけではなかったが、近いところにいた。 哲也はそれらを持ち帰ることにした。 図鑑で知っていたので、大きいほうがメスで小さいほうがオスであろうと思った。 このたまたま同じ日に、オオカマキリのオスとメスをつかまえたことで、哲也はどうしても見たい場面があった。 1つは交尾。 本によれば交尾後、メスはオスを食べるらしい。 そんな場面を見れるといいなぁと思っていた。 そして1つは産卵。 さらに産卵が成功すれば、次は孵化。 これらを本や図鑑の写真じゃなく、実際に目で見てみたい。 そう思い、哲也は準備をすることにした。 もちろん活躍するのは父がつくってくれた背が高い大きな虫かごだ。 小瓶に水を張り、草を入れたものを数か所準備。これはカマキリの生息地の草原を再現するためと、エサにするバッタのエサにするためである。 バッタだけを飼うならこれでいいのだが、カマキリに産卵させたいので、それとは別にササや木の棒をいくつか持ち帰り、まっすぐに立てておいた。 野外でカマキリの卵は何度も見たことがあった。 ときどき壁に産んでることもあったが、基本冬になっても枯れてしまわないようなしっかりした細い木の枝や、草の茎なんかでよく見つけた。 なので、そういうものを再現することにしたのだ。 できあがったカマキリの家に2匹のカマキリを放つ。 そしてつかまえておいたバッタたちも放つ。 哲也のカマキリ累代飼育プロジェクトの始まりである。

哲也昆虫記&哲也の福岡一周釣り行脚について

最近、新しい話を書いておらずすみません・・・。 自分の少年時代の話なので、ネタはたくさんありますが・・・・。 夏期講座で忙しく、とにかく絵を描く時間がない! というわけで、しばらくお休みしておりますが 必ず再開しますので、もう少々お待ちください。 始めたらいろいろな形でお知らせしていきますので、ぜひまたご愛読ください。 よろしくお願いします!

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑫ハンミョウ釣り その4

哲也はいろんな虫や生き物を与えた。 こいつらいろんなものを食う! アリやハエなどの小さな昆虫。 コオロギのような大き目の昆虫も食べる。 野外で見たように、カエルも食う。 哲也は日々、いろいろ準備して与え続けた。 大変だったが、食べる様子を見るのは楽しかった。 しかし、しばらくすると穴の中に彼らが見えなくなった。 死んだのか・・・・。 哲也はその穴の一つをそーっと掘ってみた。 なんと!蛹になっているではないか! 「これが蛹か!すごい!」 しかし、その蛹は扱い方がわからず しばらくそのまま地面に置いておいたらダメになってしまった・・・・。 申し訳ないことをしたなぁと思った。 だが、ほかの穴の幼虫は掘り返してないので もしかすると蛹になっているのかもしれない。 哲也は事故を防ぐため、これ以上掘り返すのはしなかった。 そのうち冬が来て、哲也はそのケースを暗いところに置いたままにしておいた。 5月末ごろだっただろうか・・・。 ふとそのケースのことを思いだし、見てみることにした。 とりあえず異変はない。 いてもたってもいられず、哲也はまた穴の一つを掘ることにした。 蛹の期間がそんなに長いとは思えない。 羽化して、待機している成虫を見れるのではないか?と思ったからである。 ゆっくりと穴のまわりを掘っていく。 するとなんか輝くものが見えた。 「もしかして・・・。」 哲也は慎重に掘った。 すると、前足で土をかきわけるように あの美しい成虫が顔を出した。 「やったー!」 哲也は感動した。 いろんな思いがこみあげてくる。 ミチオシエと呼ばれるとおり、目の前を飛びながら進むハンミョウ。 美しい姿でえさを探し回るように、あちこちはいまわるハンミョウ。 飼育してもなかなか長生きさせることができなかったハンミョウ。 あらゆる場面を思い出していく。 そうして昨年の夏、ハンミョウの幼虫と出会い、そして釣り上げ、飼育を始めた。 その結果、サナギをダメにするという失敗もしたが、 今まさにその集大成である成虫の作出に成功したのである。 哲也はこらえきれす、全部の穴のそばを掘った。 そして3頭の成虫を掘りだした。 その美しさはいくらながめても飽きなかった。 このときの成虫の姿は、今も哲也の脳裏にやきついている。