Category: 哲也昆虫記~ファーブルになりたかった少年~

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑫ハンミョウ釣り その3

哲也は家に帰ってから、図鑑やら本やらを引っ張りだし、今日見たものがなんなのかを調べることにした。 いくつか見て、ハンミョウの幼虫に間違いないと確信した。 そうとわかれば、あいつをとらなければならない。 そして、カエルがひきこまれるさまを見て、作戦はもう考えてあった。 本によると、ハンミョウの幼虫は穴のそばを通る生き物を食べるらしい。 哲也が見たものには、昆虫をとらえているものばかりで、カエルを引きずり込んだのを見たのはラッキーだったのかもしれない。カエルを食べるという記述をした本は見当たらなかった。 とにかく、小さな生き物なら食べるだろう。 次の日、哲也はいくつかの虫や小動物をつかまえた。 そしてカゴに入れた。 そして釣り糸を持っていく。 本によると、幼虫の背中にカギのようなものがついており、ひきずりだされないよう穴の壁にひっかけたりするらしいし、カエルの様子を見るに、なかなか強い力であることが予想されるので、木綿糸では心もとなかった。 まあ、生きた虫にくくりつけるのは木綿糸のほうがやりやすいだろうが、哲也はそんなことは気にしない。 とにかく引っ張りだす。そして飼育する。 これしか頭になかった。 準備が整い、哲也は目的地に向かった。 例の固い土の原っぱ。その中でも特に草むらとの境辺りに穴が多かったと記憶している。 とにかくそこを狙う。 着くや否や、哲也は虫を糸でしばった。 そして穴の近くに誘導する。 すると、穴から例の幼虫がヌッと顔を出した。 瞬間、そいつは虫にかみつき、そのまま穴にもぐろうとする。 とにかく動きが早い。 だが負けるわけにはいかない。 哲也は糸に力を入れ、上に引き上げようとした。 幼虫はもぐろうとするので、綱引きのようになった。 「つえぇ。」 思わず声を上げた。 だが、所詮は相手は虫である。 そのうち根を上げて出てきた。 「よしとれた!」 哲也はこのときプラスチックケースも準備していた。 幼虫は持ち帰るのが大変だろうから、先に飼育する環境を整えて、それに入れた帰ろうと考えていたのだ。 プラケースに10数センチの深さまで土を入れてある。 哲也はさらに家にあった大きな釘を使って、穴をいくつか作っておいた。 その穴に、とった幼虫をおしりから落とし込む。 こうやって、哲也は何匹かハンミョウの幼虫をつかまえるのに成功した。 そしてそのケースのまま持ち帰った。 なぜ幼虫を持ち帰ろうと思ったかと言うと、もちろん成長して羽化して成虫になってくれれば、あの美しいハンミョをいつでも見ることができるからだ。 成虫をつかまえて、何度か飼育したことはあるが、なかなか長生きしなかった。 もちろん飼い方を知らなかった哲也がつくった環境が合わなかったというのが理由だろう。 でもこれなら幼虫から成虫まで長く飼育できるだろう。 うまくいけば蛹も見れるかもしれない。 そういう思惑から、今回の採集が計画されたということだ。 そしてこの日から、幼虫のエサの確保が始まった。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑫ハンミョウ釣り その2

哲也はいつもの砂利道に立っていた。 よく見れば、この日もハンミョウはいる。 今日はこいつらの秘密を暴いてやる! 哲也はそう息巻いていた。 ハンミョウの成虫をよく見るのは、先述のとおりこの砂利道とその周辺。 砂利道の脇にある草むらの外側にある固い土の原っぱ。 そして、原っぱの脇を流れるコンクリートで固められた用水路のまわり。 この通りを抜けると、まったくいないわけではないが、極端に数が減るのは明らかだった。 間違いなく原っぱか用水路に秘密があるとにらんでいた。 哲也は草をかきわけると、固い土の原っぱの上に立った。 そしてまずはあたりを見渡す。 ときどきハンミョウが這ってるのが見える。 意気込んできたものの、何から手を付ければよいかわからない。 きょろきょろしながら途方に暮れる。 そもそも何を探せばいいのか・・・。 哲也はもっとちゃんと下調べをしておくべきだったと後悔した。 本や図鑑でハンミョウのことをもっと頭にたたきこんで来ればよかった。 だが、哲也はすでにフィールドにいる。 何か行動するしかない。 とりあえずは固い土の原っぱを歩く。 まわりをキョロキョロしながら一度端から端まで歩いてみた。 とりあえず何も見つからない。 もう一度歩く。 今度は下を見たり上を見たり、目線を変えて歩く。 何も見つからない。 自分のレベルでは何もできないのか? 哲也にはファーブルのような知恵も根気もない。 結局、少々昆虫が好きなだけの普通の少年なのだ・・・。 なんか悔しかった。 哲也はふてくされたようにその場にすわりこんだ。 歩き回って足も疲れた。 ついでに少し休もうか・・・。 そう思いつつ、ふと見ると1匹の小さなカエルがピョンピョンと前に進んでいるのが見えた。 「かわいいな。」 哲也はなんとなくそのカエルの行先を見つめていた。 体長1cmか2cmかそこらの小さなカエルだ。 そのカエルがジャンプをやめ、立ち止まった。 せっかくだから今日はカエルでもつかまえてみようか? などと考えていた。 そのとき、カエルが不自然なかっこうになり、土にへばりついた。 「なんだ?」 思わず声をもらした。 見ていたがそのカエルはジャンプもせず、横腹が地面に吸いつけられるようにからだを傾けたままの状態になっている。 足をばたつかせているが、その場から動かない。 何かが起こっている。 哲也はゆっくりとそこに近づいた。 どうやらそのカエルは地面にある穴に引き込まれているようだった。 「なんかいる?」 そう思ったとき、ふとその近辺を見ると・・・。 地面に小さな穴がたくさんある。…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑪ハンミョウ釣り その1

ハンミョウって本当に美しい! はじめて図鑑で見たときに、どうしてもつかまえたい!と思った虫の筆頭だ。 色が美しいうえに、するどいアゴを持っている。 容姿のみならずその習性もおもしろい。 図鑑によると、人の歩く前を飛びながら進むので「ミチオシエ」と呼んだりするらしい。 そして、山に何度か入るようになってから その名の所以を知る機会はすぐにやってきた。 ハンミョウを見ることができたのだ。 始めてみたときは感動した。 やはりなんといってもあの美しさ。 まばゆいばかりの光で、神聖な感じさえ覚えた。 そしてそいつは、図鑑にあるように確かに哲也の目の前を、哲也の先に行くように進んだ。 ミチオシエと名付けた人に拍手をあげたい。 哲也が山に入るのは、クワガタやカブトムシをはじめ、いろんな昆虫をつかまえたり、観察したりするためであった。 哲也がよく行っていたクワガタ採集の場所に行く途中に、数100mほどの砂利道があり、その両サイドは道に沿った細長い草むらであった。草むらの奥には固い土の原っぱがあり、哲也はその原っぱを横目に、意気揚々とこれからとれる!かもしれないクワガタに思いを馳せながら歩いていくのが常であった。 その砂利道が、実はハンミョウをよく見る場所であった。 最初はたまたまこの道で見かけただけだと思っていたが、実際には林の中とかよりむしろこの砂利道で見ることが多かった。 この砂利道のそばの固い土の原っぱの奥には小さな用水路があった。 この用水路は、時々水生昆虫がいたり、小魚がいたりするので、そういうのをつかまえに来ることもあった。 そんなとき、ふと見ると用水路を作っているコンクリートの上をはっているハンミョウを見かけたこともある。 とにかく、このあたりはハンミョウが多かった。 逆に、ほかの場所ではハンミョウをあまり見つけることはなかった。 このことに気付いたとき、哲也にはある考えが浮かんだ。 もしかするとこのあたりはハンミョウに適した環境であり、発生の場所にもなっているのではないか? そう思ったとき、哲也は行動に出ることにした。 このあたり一帯の探索である。 哲也はある日、大好きなクワガタとりもとりやめて、その調査に乗り出すことにした。 哲也にとって夏休みの一日は超貴重であった。 哲也は出された宿題のほとんどを、最初の数日で終わらせていた。 あとは日記とか、その日にできないものだけの状態にする。 漢字練習なんかは、急いで汚い字で書くので、おそらく提出時に怒られるだろう、 でも、夏の哲也はそんなことは考えられない。どうでもいい。 哲也にとっての夏休みは、虫取りと魚釣りの夏だった。 そして、いろんな場所で虫取りや釣りをしたい哲也にとって、一日は本当に大事だった。 一日行動を間違えば、行ける場所が減り、成果にも影響が出る。 その一日を調査にあてる・・・。 それほど哲也はハンミョウというものの生活に興味を持ったのだ。 いろんな道具をリュックに詰め込んだ。 明らかに普段の虫取りとは違う格好だ。 哲也はハンミョウの生活を暴いてやろうと意気込んでいた。 今年はクワガタの採集数が減るかもしれない。 でもそれよりも、ハンミョウのあの美しさがどうやって生み出されるのか? それをどうしても知りたい! たった一人の捜索隊は、ハンミョウの発生現場めがけ出発した。

哲也昆虫記&哲也の福岡一周釣り行脚 予告編! 明日より新編連載開始!

ご好評いただいている!? 哲也昆虫記と哲也の福岡一周釣り行脚 明日よりいよいよ新しいお話を掲載していきます! 話自体は、自分の経験を元に、脚色を咥えながら書くので まだまだネタもあるんですが・・・。 以前にも書いたとおり、とにかく絵を描くのが進まない・・・。 絵が苦手なうえに、時間がかかる。 ついでに言うと、描くまでに勇気がいる。 というわけで、なかなか思ったように進みませんが 今回、文の構想とそれに合わせた絵がほぼ完成! 明日から久しぶりに投稿していきますので、ぜひご期待ください! 哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ハンミョウ釣り編 哲也の福岡一周釣り行脚 ~三平にあこがれた少年~ 篠栗渓流ヤマメ編 ついにスタート!

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑩トンボ釣り その4

トンボをつけた竿を持ち、ヒノキの枝に座る。 そして竿をゆっくりと出す。 オニヤンマのメスは元気よく飛び始める。 もちろん、あちこち行こうとするが、糸があるので自由には飛べない。 結果、半径2mほどの狭い範囲をグルグルまわっている。 哲也は息を殺してそのようすを眺めていた。 しばらくするとついにオニヤンマが現れた。 オスだろうか?メスだろうか? うまく誘引されるだろうか? そんな心配をよそに、現れたオニヤンマはすぐに反応した。 メスに向かって飛んでいく。 コイツがオスなら交尾をしかけるだろうし、メスならなわばり争いのため攻撃をするだろう。 メスの場合はとれる可能性が低い。 オスであってくれ!祈るような気持ちで彼らを見つめる。 やってきたオニヤンマは彼女のまわりをグルグルとまわった。 メスはそれを気にするふうでもなく、今までどおりの動きをしている。 そしてヤツは空中静止したかと思うと、メスの背後から飛びつく。 メスはそのまま飛び続けるが、糸ではばまれる。 ヤツはメスに追いついた。そして背後からメスの体をつかむ。 このとき確信した。これはオスだ! しかしあせってはいけない。 しっかり交尾態勢に入るまで待つ。 今竿を動かせば逃げていく。 哲也はぐっとこらえて、竿をにぎったままじっとしていた。 するとついに交尾行動をはじめた。 メスはオスとくっついたまま近くの細い枝にとまる。 そしてオスとメスは輪をつくるように完全にくっついた。 交尾成立だ。 「よし今だ!」 哲也はゆっくりと左手で竿を動かし右手で糸をつかんでたぐりよせた。 その瞬間、オスがメスのからだから離れそうになった。 シュッ! 哲也は素早く右手を動かして、オスの羽をつかんだ。 あのブルブルとした振動が手に伝わってくる。 「やった!成功だ!」 哲也の手にはオニヤンマがにぎられていた。 相手を失ったメスは糸につながれたまま、そのあたりを飛んでいる。 「でかい!」 オニヤンマをまじまじと見つめ、自然と笑みがこぼれた。 やりとげたという思いがある。 オニヤンマは哲也にとって、大好きなトンボであり、また素早く確実につかまえるのが難しい種であった。 その難攻不落のオニヤンマをあっさりと捕まえることができた方法は釣りだった。 虫取りは網でやるもの。そうした固定観念にとらわれないことが大事なのだと悟った。 もう1つ、難攻不落のトンボがいる。ギンヤンマだ。 あの鮮やかな緑色のボディ。旋回するスピードはオニヤンマ以上ではないだろうか? しかも、彼らはウチの畑にはほとんど来ない。 虫取りのため、少し山中に入ったときによく見る。 何度かチャレンジしたものの、つかまえたのはほんの数回。 哲也は、今度はこの方法でギンヤンマをとろうと思った。 いつかいこうと思いつつ、結局この方法をギンヤンマに試すことはなかった。…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑩トンボ釣り その3

哲也が考えたのはチョウなどの昆虫をとらえて、それをえさにトンボを釣るというものだ。 ただ、普通に竿を振り回してもおそらく自分が丸見えでトンボは寄ってこない。 しかし、さらなる秘策があった。 哲也の家の畑には、今は枯れてしまってるが、当時4mほどの高さのヒノキが4本ほど立っていた。 さらにそのヒノキの後ろには哲也の背くらいの高さのブロック塀があった。 哲也はいつもその塀によじ登り、そこからヒノキの枝に手をかけて木登りして遊んでいた。 セミを捕まえたりもできるし、何より眺めがいい。 約10m四方の畑を一望できるので、いろんな生き物を発見するのにも役立った。 今回はそのヒノキに登り、枝に座ってそこから竿を下ろす作戦だ。 これだと、哲也はトンボのようすを上から見ることになる。 トンボからは見つかりにくいし、竿でエサにするチョウを操作しやすい。 まずはとにかくやってみることにした。 チョウを弱りにくいように木綿糸でしばる。 しかけができたら塀に竿を立てかけてブロック塀に登る。 そのあと、竿をつかんで持ち上げてブロック塀の上にのせて、木に立てかける。 そのまま今度はヒノキに登る。 そして竿を回収したら体勢を整える。 そしてトンボが飛んでるそばにチョウを誘導するように竿を動かす。 チョウはヒラヒラと飛んでいる。 そこにシオカラトンボがやってきた。チャンスだ! シオカラトンボはチョウのまわりを少し旋回し、そのあと一気にまっすぐチョウにとびついた。 来た!哲也は竿を上げる。 しかし、トンボはチョウを離し逃げて行った。 なるほど。魚釣りのように針にひっかけるわけでもない。どうやって回収するんだ? 哲也は考えた。そして網を持ってきた。 またしかけをつくりさっきと同じ方法で、今度は竿と網を木の上まで運ぶ。 そしてまたトンボを釣る。 ウスバキトンボがやってきた。この畑で最も多く見るトンボだ。 チャンスが来た。 トンボがチョウに飛びつく。 そこを狙ってチョウごとトンボを網に入れる。 「やったー!」 うまくトンボを手に入れた。 しかし待てよ。確かに釣ることはできた。だが網を使う分手間がかかる。 なんかそのまま網でとればいい気がしてきた。 とりあえずもう一度やる。 ここで哲也は急にだまりこんだ。 オニヤンマだ。 眼下にオニヤンマが来た。 網と竿両方使うのめんどくせぇ~。 なんて思考は今はナシ! とにかくオニヤンマをとる! 哲也はゆっくりと竿を動かし、チョウを飛ばす。 オニヤンマは旋回していたが、急にヘリコプターのように空中静止した。 チョウに気づいたのだ! 慌てず息を殺して竿を握る手に力をこめる。 来い来い! 頭でそう念じる。 オニヤンマは急に向きを変え、チョウに突進する。 つかんだ。今だ!…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑩トンボ釣り その1

哲也はトンボが大好きだった。 素早く飛ぶもの。チョウチョのようにヒラヒラ飛ぶもの。 色が鮮やかなもの。大きいもの。小さいもの。 からだが細長いもの。太短いもの。 いろんな種類がある。 そして、哲也の住んでいた実家の畑にはたくさんの種類のトンボがやってくる。 近所には田んぼや用水路があるし、多々良川もある。 つまり産卵場所が近いということ。 それに、畑には作物や木々が生えていて、虫もたくさん飛んでくる。 トンボにとって餌場としても申し分なかったのだろう。 哲也はこれらをつかまえるのも、よくやる遊びの一つだった。 ちなみに、シオカラトンボやナツアカネ、アキアカネ、ウスバキトンボなどが常連であった。 しかし、時々ハグロトンボやコシアキトンボなどもきた。 さらに・・・。哲也の心を躍らせるトンボが! オニヤンマだ。トンボ全般好きだったがオニヤンマは別格! あの大きさ、重量感! そしてそのからだで素早い動き。 カンタンには網に入ってくれず、何度も取り逃がす。 うまくとれたときのうれしさときたら・・・。 とにかくオニヤンマはとれる確率が低い。 10回見て、2,3回とれればいいほうではないか? 先ほども書いたように、虫が多いウチの畑。 特にチョウはかなり来る。モンシロチョウをはじめ、タテハやアゲハ、シジミ、セセリ、ジャノメなどたくさん来る。 オニヤンマにとって良い狩場だったのだろう。 山に入らないとあまり見れないオニヤンマが普通に来る畑だった。 なので、オニヤンマを探す必要はない。とにかくとれる確率を上げたい。 そんなときに衝撃の現場を目撃した。 父の技だ。 ある日、父が畑のそばにある鶏小屋で、えさやりなんかをしているときに 哲也はトンボをつかまえようとしていた。 鶏小屋の近くの壁にオニヤンマがふととまった。 父は静かに近寄ると、シュッと腕をふった。 そしてそのまま哲也のほうに近づいてきた。 「ほら。」 手にはオニヤンマが。羽をつかまれたオニヤンマはブルブルとからだをふるわせている。 ありえない。網で追ってなかなかとれないオニヤンマを素手で・・・。 哲也は思わず叫んだ。 「なんで!?」 そういう哲也に父はニッと笑って 「ウデたい。」 と、丸太のように太い腕をたたいて見せた。 結局、その技については父はなにも語らなかった。 哲也は真似して何度かとまったトンボをとろうとしたが一度も成功しなかった。 そんなとき、あることをきっかけにオニヤンマを確実にとれる(はず)方法を思いついた。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑨哲也とカブトムシ その10

色が黄色くなり、からだがぶよぶよになり、屈伸運動を繰り返す。そしてエサを食べたりもぐったりしない。 そう、この状態は前蛹(ぜんよう)とよばれる状態である。 このころの哲也はそれを知らなかった。 カブトムシ幼虫は成熟すると、たてに長い楕円形の部屋をつくる。ふんをぬりつけたり、からだをこすりつけたりして、かなりなめらかで固い面でおおわれる。これをつくるのにかなりの体力を消耗する。 そして部屋を作り終えると、先述の状態になり、部屋の中で屈伸運動をしながらすごし、ある時期になるとからだを硬直させるようにピンと伸ばして脱皮。蛹へと変化する。 こういうった虫を飼っているとまれにあるのだが、部屋をつくらずに土の上で前蛹になることがある。 おそらく、部屋をつくる場所を探し回り、気にいったところが見つからず、からだのほうが先に変化しようとするため、しかたなく土の上でなるものと思われる。 こうなると、ほおっておくしかない。 しかし、哲也は心配したあげく、さわりまくったり、土をかぶせたりしてしまったのだ。 これはかなり体力を奪ったことだろう。 ある日、ようすを見ると、それは動かなくなっていた。 死んでしまったのだ。 もしかすると、蛹になる直前の動かなくなる時期だったのかもしれないが、その当時の哲也はそんなことは知らない。 今となっては死んだのか、動かない時期だったのかわからないが、結局その幼虫をダメにしてしまった。 この日以来、哲也は自分がすごいと思うのはやめにした。 それから哲也は多くの経験を積んだ。 いろんな情報から、カブトムシやクワガタのとれる場所をたくさんインプットし、おそらく30か所以上は知っていたと思う。 その日の気分に合わせて、好きなところにとりに行った。 冬場の幼虫採集も、何か所か場所を見つけた。 また、夜じゃないといないと思っていたカブトムシだが、昼間も結構樹液にきていた。 ただ、昼間の採集はスズメバチを避けながらの採集となり、恐怖との闘いであった。 まあ、夜は夜で暗闇やマムシにおびえながら山に入ってたんだが・・・。 哲也はカブトムシを採集したり、飼育したりすることがずっと好きであった。 まあいい歳した今もやってるんだが・・・。 子供のころよりは、飼育や採集のウデは多少マシになってると思うが、今もときどき思い出す。 あのころ、 カブトムシがほしい! カブトムシを育てたい! そう思いつつ、山に入ったり、いろんな飼育の仕方をためしたりした。 そのときの記憶は今も色あせることなく、心に刻まれている。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑨哲也とカブトムシ その9

カブトムシについていろいろ教えてくれた近所のにいちゃん。 そのにいちゃんによると、友達にもっとすごいヤツがいるという。 今度その人を連れてくるらしい。 まだ小学生にもなってない哲也にとって、普通なら、その頼もしいお兄ちゃんたちは、すごい存在のはずだった。 実際、その近所のにいちゃんも最初すごい兄ちゃんだと思っていた。 だが、それなりにカブトムシについてわかってくると(あとで、わかってきたわけではなく、まだまだだったと思い知らされることになるのだが)、自分はこんなに小さいのに、これだけわかってるんだから、ボクのほうがすごい。などと思うようになっていた。 ある日、近所のにいちゃんが友達を連れてきた。 このとき季節は冬。 その人は哲也に会うなりこういった。 「カブトムシすきなんやろ?」 哲也は大きくうなずいた。 「じゃあ、今からカブトムシとりにいこう!」 哲也はあっけにとられた。 いや、今冬だよ。もうクヌギの葉はほとんど抜け落ちて、樹液もなく、ガやカナブンやスズメバチさえもいない。 ポカンとしている哲也に彼はこう言った。 「軍手とバケツとスコップ持ってきよ。」 なんかよくわからんかったが、とにかく哲也は言われた通り準備した。 不思議そうな顔をしている哲也に、特に説明をするでもなく 「さあ、行こうか。」 と哲也の手を引いて歩き出す。 哲也は何事かわからなかったが、とにかくついていった。 近所の兄ちゃんも一緒だし、こわいことはないだろう。 しばらく歩くと、いつもクワガタやカブトムシをとる林道の近くまできた。 「今の時期、いるわけないのに・・・。」 哲也は心の中でつぶやく。 しかし、彼はその林道を通らず脇道に曲がる。 そこは雑木林に続く道ではない。 田んぼのあぜ道を抜けた先に鶏小屋のある場所だ。 少し歩くと、例の鶏小屋の独特のにおいがしてきた。 鶏小屋に行くんだろうか? だが、彼はその入口を通り過ぎさらに歩く。 そして鶏小屋の敷地のとなりにある小高い自分の背丈より少し高いくらいの小さな山の前に立った。 「よし。じゃあ掘るぞ。」 そこは鶏の糞や食べ残し、あるいは小屋周辺の掃除のときに集めた落ち葉などを積み上げた山だった。 少々におう。 未だ、何事かわからない哲也をしり目に、彼はその土を掘りだす。 そしてすぐに・・・。 「いたいた。」 そういうと彼はまるまるふとったカブトムシの幼虫を手に乗せて、哲也に見せた。 そういうことか! ここはカブトムシの産卵場なのだ。 初めて野外でカブトムシの幼虫を掘りだす。 ごろごろと幼虫が出てくる。 「すごい!」 哲也は我を忘れてとりまくった。 しばらくして 「じゃあいる分だけ残して、あとは帰そうか。」 全部持ち帰るつもりだった哲也は驚いた顔をしてみせた。 「どうせたくさん飼いすぎると飼育大変だし、残しとけばまた来年そいつらが卵産んでくれるやろ?」 なるほど。そんなことまで考えているのか・・・。…

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑨哲也とカブトムシ その8

今日はいよいよ父が夜にクヌギのある林道に連れていってくれる日。 いてもたってもいられない! 晩御飯なんか、何をどう食べたかも覚えていない。 早く行きたい!そればかりだった。 そんな哲也を察してか、日が落ちて暗くなった20時ごろ 「行こうか。」 父は哲也に声をかけてくれた。 「うん!」 長袖長ズボンにタオルに帽子。 靴を履こうとすると 「長靴はきんしゃい。マムシがおったらいかんけん。」 そう言われ、哲也は長靴に足を通した。 父も作業用のごっつい長靴を履いていた。 それから哲也は小さめの懐中電灯を持たされた。 「これやるけん、大事に使わなよ。」 「うん!」 哲也は嬉しかった。なんか少し自分が大きくなった気がした。 父は大きい懐中電灯を持ち、哲也は小さな懐中電灯を持つ。 そして並んで目的地に向かった。 家からさほど遠くない、歩いて10分から15分ほどのところだ。 その道中も楽しかった。 父と夜に出かける。こんな状況が嬉しかった。 目的地に近づくと、それまで父となんかしら話していた哲也だったが、声を押し殺した。 虫に自分たちが気づかれるのでは?と思ったからだ。 1本目の木に着いた。ゆっくりと懐中電灯を木に当てる。 「うわぁ・・・・。」 声に出したか出さないかわからないほど小さな声でうなった。 明かりに照らし出されたのはカブトムシたち。 カナブンや小さなクワガタ、ほかにもいろいろいる。 哲也はしばらく動けなかった。 感動してただただその場面を見つめたままになった。 「逃げんうちにとらんと。」 父の声にはっと我に返った。 父と一緒に次々にカブトムシやクワガタをかごに入れていった。 2本目も3本目も同じ状況だった。 この林道沿いにはクヌギが5,6本ほど並んでおり、そのどれもが樹液をあふれさせていた。 そしてそのどの木にもカブトムシやクワガタがついていた。 夜の採集がこんなにすごいとは・・・。 哲也は嬉しくてたまらなかった。 「連れて来てくれてありがとう。」 「よかよ。」 照れくさそうに言った父の顔は今も忘れられない。 保育園児が、灯火採集を覚え、累代飼育に成功し、夜の樹液採でも成功をおさめた。 父や近所のにいちゃんなど、周りの協力あってこそだったが 哲也はとにかく自分はすごい昆虫博士にでもなった気分であった。 しかし、その天狗の鼻を折られる事態が発生する。