寝転がって、風を感じながらも 哲也は竿先の鈴を気にかける。 のんびりしたいとは言っても、やはり釣果は気になる。 しばらく時間が経ったが、まるで反応なし。 いつもなら鈴が鳴り、フナの1匹も釣れてるころだが・・・。 哲也はコイを釣りたいとは思っていたが、なかなか釣れないのはわかっている。 しかしフナは毎回何匹かは釣れていた。 哲也は自分が釣りがうまいとは思っていなかったが、下手だとも思っていなかった。 ボウズ(何も釣れないこと)の日もあったが、ほとんどの場合、なんらかの成果を上げてきた。 しかし、この日の鈴はずっと沈黙している。 しびれを切らした哲也は仕掛けを巻き上げた。 エサもほぼ残っておらず、つけかえの時期だったのだろうと、もう一度気を取り直してだんごを針につけて池に投げ込む。 またしばらく寝っ転がる。またアタリはない。 のんびりしたい気持ちとは裏腹に、釣れない焦りから、いろいろ考えだす。 またしかけを巻き上げた哲也は、ねりえの配合を変えることにした。 さなぎ粉を多めにする作戦に切り替える。 本当はしたくなかった。さなぎ粉を増やすと、だんごのねばりが少なくなり、リールで投げ込むときにえさが飛び散ることがある。そのため思い切り遠くへ投げることができなくなる。 それでも、ここまで成果が上がってないのだから、やり方を変えるのは当然だと思った。 ふなの1匹でも釣らなければ、何よりかっこうがつかない。 哲也はさなぎ粉を多めにんしただんごをつくり、針につけた。 そして、これまで投げてた方向とは少し違う方向に向けて、飛距離も抑えめに投げた。 ボチャンと音がしてねりえが着水した。 だんごが飛び散ることはなく、うまく投げ込めたようだ。 哲也はまた寝っ転がって、風を頬に受けながら、目をつぶった。 竿先は見ずに、ぼうしを顔にのせて目を隠した。 そうして耳だけを澄まし、風の音に混じって鈴の音が聞こえてこないかと待ち構えた。