Category: 哲也昆虫記~ファーブルになりたかった少年~

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑧水生昆虫の王者タガメ その2

ある日、哲也はとある小川に向かった。 その川は最終的には多々良川に流れつくのだが、哲也が行く場所は本流からかなり離れたところだ。 今回の目的はザリガニ。 その川はザリガニの宝庫だった。 ある病院の裏手の水路ではニホンザリガニがたくさんいた。 しかし、哲也はそれらではなく、アメリカザリガニをとりたかった。 小さな川だが、オオカナダモなどの水草がたくさん生えていて、小魚やエビなども豊富だ。 ザリガニを釣るのも好きだったが、たくさんとりたいときは1匹1匹釣るのは面倒なので、深いところは網、浅いところは手づかみでとるのが哲也流だった。 この日もザリガニをとって楽しんでいたのだが、ふと水草のかげで何かが動いたように見えた。 「何かいるんかな?」 哲也はゆっくりと網を水草のあたりに近づけ、ガサガサと動かして、水草ごとすくいとった。 中にはエビやアメンボが入っていた。いつものことだ。 しかし、よく見ると水草のかげに見慣れないものがいるようだ。 危険なヤツかもしれない。 哲也はおそるおそる水草を網から取り除いた。 「あっ!」 哲也は思わず大きな声を上げた。 「コオイムシだ!」 そこには念願のコオイムシの姿があった。 しかも卵を背負っている。 「すげー!」 感動だった。本当に卵をオスが自分の背中で守るのだ。 哲也は何か神秘的なものを感じた。 近くにメスがいるかも。 哲也はさらに捜索した。 しばらくいろいろガサガサやってみたが、結局コオイムシはこれ1匹だけだった。 メスが見られなかったのは残念だが、哲也にとって初のコオイムシ。 ザリガニが大漁だった嬉しさは、コオイムシの発見でかすんでしまったが・・・。 哲也はしばらくコオイムシを観察した。 それからゆっくりと川に戻した。 元気な子供をたくさん孵化させて、増やして、今後もその姿を見せてほしいと思った。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑧水生昆虫の王者タガメ その1

哲也の住んでいた家から5分もかからずに川に行ける。 今でこそ護岸工事で見る影もなく、生き物もすめない川になってしまったが 当時はなんでもとれる川だった。 魚はコイ、フナ、ナマズをはじめ、カマツカ、ドンコ、ドジョウ、ハヤ、オイカワ、メダカ、ヨシノボリなどがたくさんいて、釣りをしたり、つかまえたりしていた。 魚だけではない。ザリガニはすぐにバケツいっぱいになるほどとれたし、サワガニはたくさんとれるので、よく空揚げにしてもらった。カワニナやシジミもいたので、ときどきとってきてばあちゃんに料理してもらったりもしていた。タエビもたくさんいて、つかまえて魚釣りに持っていったりしていた。なかなかとれなかったが、スッポンもいた。 その川というのは多々良川。初夏はホタルも飛び交ういいところで、哲也の格好の遊び場だった。 そして、哲也がつかまえる生き物として忘れてはならないのは昆虫だ。 この多々良川、先述の通り、今は護岸工事で水もほとんどないつまらない川になってしまったが、昔は河原には草が生い茂り、川岸にも草がたくさん生えていたし、大小さまざまな石や岩もごろごろしていたし、もちろん水草もあちこちに生えていた。生き物の宝庫だ。 アメンボはいつも浮いていたし、ときどきタイコウチが泳いでいるのを発見できた。 このころタイコウチは珍しくはなかったが、毎回会えるものでもなく、見つけるとテンションが上がった。 何度か持ち帰って水槽で飼ってみたりもした。エサの調達はカンタンだ。同じ川からメダカやオタマジャクシを一緒につかまえてくればいいのだから。 大きな水槽に、これもまた川からとってきたオオカナダモを生やし、その中にタイコウチとメダカをはなす。 自然の川の中では、なかなかエサをとるシーンは見られなかったが、飼育すると見ることができた。 まあ、ただエサ与えるだけしかしなかったし、飼い方もよくわからないので、毎回数日~数週間で死なせてしまっていたが・・・。 それでも、そうした虫を飼うのはやはり楽しかった。 ほかにも網をつかって水草のまわりをガサガサやると、いろんな虫がとれた。 シマゲンゴロウ、ガムシ、マツモムシなどがとれた。 そんな中、どうしてもとりたいが、とれなかったものが4種いた。 ゲンゴロウ、ミズカマキリ、コオイムシ、タガメの4種だ。 これらはそもそも多々良川にいたのか?今となってはわからないが・・・。 ただ、水生昆虫がいる場所は多々良川だけではない。哲也はいろんな水路やたんぼ、多々良川の支流などに出向いて、昆虫採集をやってみた。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑦掃除屋たちとの出会い その5

哲也は4匹のオサムシを同じケースに入れた。 正直、オス、メスが混じってるのかさえもわからない。 そもそも肉食の昆虫は共食いの危険性があるので、多頭飼育はNGだなんてこと 幼い哲也は考えもしなかった。 とにかくオサムシを育てたい。 そして、カブトムシでは成功している産卵→幼虫飼育→成虫まで育て上げるという、いわゆる累代飼育ができればいいなと思っていた。 これができれば、めんどうな採集は今後必要なく、いつでもオサムシが見れると思ったのだ。 とにかく、哲也はそれら4匹に、ミミズなどを入れて一生懸命育てた。 ある日、交尾の場面にでくわした。 少なくともオスとメスが混じってはいたみたいだ。 このまま、産卵してくれれば・・・。 しかし、そううまくはいかなかった。 ある日、ケースを除くと、1匹に群がるように3匹が囲んでいた。 その1匹はひっくり返って、弱々しく足をばたつかせていたが 他の3匹は容赦なくそれを噛んでいたのだ。 やばいと思ったが、その1匹はすでにボロボロで、助けようがなかった。 さらに別の日には、また1匹死亡していた。 そうこうしているうちに、4匹すべて死んでしまった。 ミミズを畑で調達し、食べる様子を見るのは楽しかったが、もう見ることができない。 しかしながら、交尾は間違いなく確認したのだ。 もしかすると・・・・。 期待を抱いたまま、翌年を迎えた。 暖かくなったら幼虫が出てくるかもしれない。 しかし、結局何も出てこないまま夏になった。 累代飼育は失敗に終わった。 哲也はまた例のビンをつかったオサムシトラップをしかけに行った。 そのときに、なんとオサムシの幼虫をとることができた。 哲也はその幼虫を大事に飼った。 しばらくすると、姿が見えなくなり その後、オサムシが羽化してきたのだ! 累代飼育には失敗した哲也だったが、なんとか幼虫を育てて成虫にすることはできたのだ。 これで満足し、哲也はその次の年からオサムシ採集をやめた。 掃除屋として、シデムシやゴミムシたちといっしょに死肉を食らうオサムシを見て、その形や色にあこがれてオサムシをつかまえようと思った哲也だったが、採集した幼虫から蛹化→羽化に成功したことで、うれしかった反面、熱が冷めてしまった。 今もオサムシを発見すると嬉しいが、もう採集はしない。 ミミズを与えながら飼育したオサムシたちの姿は、飼育しなくなった今も、哲也の心に焼き付いている。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑦掃除屋たちとの出会い その4

哲也は最後のビンの前に立った。 アリやハエだらけだったり、シデムシがたかっていたほかのビンの気持ち悪い状況が脳裏によぎる。 なかなかのぞく勇気が出ない。 だが、見るしかない。 哲也はなんとか気持ちを高揚させようとした。 ミミズはオサムシが実際に食べているのを見たことがある。 実際には一番確率高いんじゃないか? そう思うと・・・。 「よし!」 一声上げて気合入れてビンにさらに近づき、ついに覗き込んだ。 その瞬間! 「いる!」 哲也は大きく声を上げた。 オサムシだ! 間違いない。 たった1匹だったが、オサムシがいる。 前に捕まえ損ねた真っ黒のやつとは少し違っていた。 からだの幅が広く、光沢が強い気がした。 哲也はしばらくそのままビンの中を見続けた。 ミミズにかみついてる。 ミミズはあちこちにキズができていて弱り切っているようだった。 もちろん、アリやほかの小さな虫もいたが そんなもの気にもならなかった。 あの素早くてつかまえにくい、と言うよりは一度も捕獲に成功していないオサムシが手の届くところにいる。 哲也はしばらく観察してやっと動き出した。 軍手を取り出し、手にはめたあと、ピンセットをつかんだ。 そのままビンの中に入れ、ピンセットでオサムシをつかみあげた。 「やったー!」 哲也はそれを虫かごに入れた。 歓喜にうちふるえていた。 ビン作戦大成功!といったところか。 哲也はビンを回収し、家に帰った。 オサムシを容器にうつし、飼育の準備をした。 プラスチックケースの底に砂や土を混ぜてしき、小さな石ころや落ち葉や木の枝などをちりばめた。 そして、そこでミミズを入れて飼おうというわけだ。 ここで、飼育のことを少し調べようと、いくつかの本を見ていたら・・・・。 なんと! コップを土にうめる採集法が載ってるではないか!? 哲也はすごい方法を考え出した!と思っていたのに 普通に本に載ってる方法だった・・・・。 まあ、いいか! というわけで、哲也はまた改めてワナをつくり 今度は3本ともミミズを入れてオサムシをもう少しとろうと思った。 作戦は成功し、3匹追加してケースの中は賑やかになった。 よく見ると、異なる種類が存在していて 図鑑からおそらく オオオサムシとクロカタビロオサムシではないかと思ったが、所詮小学生の同定力なので、今となっては定かではない。 とにかく、この日から哲也のオサムシ飼育が始まったのだ。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑦掃除屋たちとの出会い その3

哲也なりに考えてしかけたワナ。 思惑通りオサムシはいるのか? 哲也はまずイモムシの入ったビンに向かった。 そーっとのぞくと・・・。 そこはアリとハエの温床だった。 おそらくアリが群れでイモムシの体中をかみまくり、 そこから体液が漏れて、そのにおいでハエがたかったのだと思う。 「うっ・・・。」 哲也は思わず声を出した。 おぞましい状況だ。 「ダメだったか・・・・。」 ため息交じりに言うと、哲也は次のビンに向かった。 次は牛脂を入れたビンだ。 掃除屋と言われる虫たちなら、絶対にくるはずだ!においもするし。 と期待をこめてビンをのぞいた。 「おっ、なんかいる!」 白っぽい牛脂だけではなく、黒っぽいものが見えた。 哲也はその黒いものを確認した。 しかし・・・。 「シデムシだ・・・。」 オサムシと並んで、掃除屋の異名が高いシデムシが何匹かいた。 交尾してるものもいた。 アリやハエもいる。 すべて確認はしていないがゴミムシのなかまもいるようだ。 しかし、残念ながらオサムシはいない。 哲也はシデムシはそれほど好きではなかったので 「いやな虫しかとれないやん・・・。」 とグチを言ってみせた。 (幼い子供が考えたワナだ。そうそううまくいかないか・・・。) 哲也はがっくりしながら、自分に言い聞かせた。 3つのうちすでに2つでダメだったのだ。 家を出るときの、期待に打ち震えた哲也はもういない。 あきらめと失意に満ちた哲也はもう期待もせず、最後の1本のほうへと向かっていった。

哲也昆虫記  ~ファーブルになりたかった少年~ ⑦掃除屋たちとの出会い その2

「のうなった。」※なくなったの意 朝、ばあちゃんはそう言って インスタントコーヒーの空き瓶を捨てようとしていた。 哲也ははっとして、思わず 「そのビンちょうだい!」 と言った。 「何にするんか?」 「虫取りに使うとよ。」 ばあちゃんは意味がわからないらしく、不思議そうな顔をしていたが どうせ哲也のことだから、なんか考えとんのやろうと そのビンをくれた。 今度のゴミ出しの日のためにまとめておいたほかのビンも2つもらった。 びんは全部で3本。 小学生になっていた哲也は、学校に行かなければならない。 学校の間は授業などほとんど身に入らなかった。 帰ってからのことばかり考えていたからだ。 哲也は帰宅するとすぐに行動にでた。 まずはスコップをもって畑に行き、ミミズを何匹か掘り出した。 ちょうど、葉っぱにイモムシもいたのでそいつもつかまえて もらったビン入れた。 冷蔵庫から牛脂を取り出して、それも持っていった。 ビン3つに、それぞれミミズとイモムシと牛脂を入れてオサムシ発見現場まで行った。 そして柔らかそうな土の部分を掘り返しそのビンを埋めた。 3本はそれぞれ少し離れた位置に置いた。 そしてあらかじめ用意しておいた割りばしに赤いテープをまいた目印をそのビンのそばにさしておいた。 哲也は、わくわくしながら家に帰った。 確か、オサムシは夜中によく活動すると、本で見たことがあった。 朝行けば入ってるかもしれない。 そう期待して、哲也は4時半に目覚ましをかけて寝た。 ジリリリリリ! 目覚ましがなった。 急いでい起きるとすぐに着替え、むしかごと軍手とピンセットをもって出かけた。 この日も学校なので、早く行って、早く帰ってこないといけない。 哲也は全力で走った。 息を切らしながら、ビンの設置場所に向かった。 近くまで来ると、例の目印の赤いテープが見えた。 哲也は期待と不安を抱えながら、そのビンに近づいていった。

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑦掃除屋たちとの出会い その1

まだ保育園児だったころの帰り道・・・。 今ではだれか迎えに来るが当たり前の時代だが 当時はある程度大きくなったら、一人で帰宅していた。 哲也は帰り道が楽しみでもあった。 田舎だったので、途中草むらでバッタ探したり 田んぼでおたまじゃくし見たりしながら帰った。 この日もあちこち寄り道しながら帰っていたが、途中気持ち悪い場面に遭遇した。 大きなカエルがひっくり返って死んでいたのだが そこに大小さまざまな虫たちが群がっていたのだ。 図鑑大好き!だった哲也は それらの虫を見てたいていのものは何という虫かわかった。 アリやハエをはじめ、ゴミムシなんかもいるが それらよりひときわ大きなものが何匹もいた。 オサムシとシデムシたちだ。 シデムシはそれまで何度か見たことあったが オサムシは初めてだった。 黒光りするその虫が、他の虫に比べ輝いて見えた。 図鑑では、青っぽいものや赤っぽいもの、緑っぽいなどもいて とてもきれいな虫だと思っていた。 哲也が見たのはおそらくオオオサムシだったのではないかと思う。 (今となっては確かめようがないが) で、とにかくそのオサムシが気になったのだが ほかにいろんないやな虫たくさんいるし そもそもかなり大きな(20cmほどあったと記憶している。)カエルの死骸は なかなか気持ち悪い・・・。 というわけで、このときオサムシをつかまえることはできなかった。 それからしばらくオサムシを見ることはなかった。 しかし、あるとき いつものようにある野山で昆虫採集をしていたとき 素早く歩くオサムシを発見した。 「オサムシだ!」 哲也は興奮気味に叫んだが相手はとにかく速い! あっという間に茂みに入られ、そのあたりの草をかきわけましたがつかまえることはできなかった。 あのピカピカの虫を一度でいいからつかまえたい! そう思ったのに、なかなかかないない。 別の日も、ミミズにかみついてるオサムシを発見したが 近づくと逃げていった。 そもそも、なかなか発見できない。 見つけても素早くてとらえられない。 どうすればいいのか悩んだ。

哲也昆虫記 番外編 今日の散歩でマイマイカブリ発見!

なんと! 今日、散歩中にマイマイカブリ発見! しかし・・・。 とにかく速い! 歩くの速すぎ! なんとか追いながら、数枚写真撮れました! 道路の脇に入り、このあと草むらのなかに消えていきました。 しかし、ラッキーだったなぁ。 哲也昆虫記マイマイカブリ編は好評掲載中! →コチラ

哲也昆虫記 準備中です・・・。

これまで6シリーズお届けしてきた哲也昆虫記! まだまだたくさん続きます! 私はご覧のとおり、絵が苦手で 美術はいつも3でした・・・・。 何十年もまともに絵を描いてなかったんですが この連載にあたり、悪戦苦闘しながら描いてます・・・・。 次回作も決まってますが、今日はなぜか絵を全く描く気になれず あえなくお休みすることにしました。 少々お待ちください。 絵はムズカシイ! でも、題材にする昆虫が簡単に調達できて、写真撮れるわけじゃないので 絵を描くしかないんです・・・。 これからもがんばりますので応援よろしくお願いします! とりあえず今日は過去の作品をどうぞ!

哲也昆虫記 ~ファーブルになりたかった少年~ ⑥セミのいる神社 その4

まだ小学校低学年だった哲也は、夜に外出することは許されてはいなかった。 しかし、セミは夜に羽化する。 あの幼虫も、本当はもっと遅い時間に出てくるはずだったのだろう。 そして夜なら、そうやって出てくる幼虫や、羽化するものを見ることができるかもしれない。 哲也はどうしてもセミの羽化を見たかった。 しかし、まずは家を抜け出すという難問がある。 さらには、昼でも薄暗い神社だ。 別にお化けなど信じちゃいなかったが、やはり怖い。 だが、どうしてもセミの羽化を見たいという欲求は抑えきれない。 哲也は意を決し、夜のための準備をした。 長袖長ズボン、それに懐中電灯を自分の部屋の隅に置いた。 夜中1時ごろ、哲也は目を開けた。 みんなが寝ていることを確認する。 それから音を立てないよう、部屋で長袖、長ズボンに着替えた。 懐中電灯を手に持つと、音を立てぬよう、玄関のドアをゆっくりと開け外に出た。 それから、わき目もふらず走って神社に向かった。 家が立ち並んでいるとはいえ、田舎である。 外灯は少ない。 いつも通る道だが妙に怖い。 それでも哲也は進んだ。そして神社へと続く細い道についた。 例の200段ほどある石段の前で上を見上げると、いつもは緑の草と長い石段と大きな鳥居が見えるのだが 今はどれも真っ暗でその色をほとんど確認できない。 吸い込まれそうな暗闇。懐中電灯の小さな光だけが頼りだ。 哲也は恐る恐る石段を上った。恐怖で足がガクガクと震えた。 それでも前に進むのは、セミの羽化を見たい一心だ。 ヘビやトカゲでもいるのだろう。時々両脇の草むらからガサガサ音がする。 そのたびに驚き帰りたくなったが、なんとか上までたどり着いた。 そして建物もほとんど見えない真っ暗な境内で、懐中電灯をあちこち照らしてみた。 すると、神社の柱でぼーっと明るく光るものが懐中電灯の光に映し出された。 哲也は慌ててその場所に懐中電灯を向けなおした。 「いた!」 誰もいない静寂の森の中、哲也が思わず上げた声が響く。 これまでの恐怖も、足のガクガクもいつの間にか消えていた。 セミの幼虫が柱にとまり、その背中が大きく割れ、その裂け目から蛍光塗料を塗ったような 白くて淡い緑色に光るからだが見えていた。 セミの羽化だ。 哲也はそれをじっと見つめた。しかし、なかなか進まない。かなり時間がかかりそうだ。 とりあえず位置は把握した。哲也はあたりを照らしてほかにいないか確認した。 すると、地面をはっている幼虫や、石垣を上る幼虫などが見つかった。 「すごい・・・。」 感動で声がかすれていた。 哲也はさらにあたりを見回した。 幼虫の殻からからだが半分以上出て、ほぼ90度反り返っているものがいた。 もうすぐ完全に脱皮するところのようだ。 「こうやって体をそらせながら出てくるのか。」 哲也はそう言いながら、その光景を見つめた。 これもまた時間がかかりそうだ。 さらに見回すと・・・。 なんと!全身が殻から抜け出て、殻の背中につかまっているものがいた。 羽はしわしわで短く、体は全体的に白くて、羽のスジの部分や、体の膨らんだ部分が薄緑に光っている。…